森信雄六段(当時)と村山聖七段(当時)による指導対局

将棋世界1994年10月号、森信雄六段(当時)の「第2次全国棋士派遣プロジェクト 滋賀」より。

 8月21日、大阪駅の米長前名人出題の詰将棋の大盤のところで待ち合わせて、村山聖七段と大津に向かう。何だか弟子のカバン持ちのようで妙な気分だが、今回の取り合わせは偶然。

 この夏は水不足で、この日琵琶湖の水位がとうとうマイナス97センチまで下がり、戦後最低を更新したそうだ。

 この日はポツリと恵みの雨も降ったが、大勢に影響はなさそうで、うらめしい限りの空である。

 膳所と書いて、ぜぜと読む。膳所駅で降りて、車で「共済会館びわこ」に案内してもらう。琵琶湖に面した風光明媚なところだが、今日はあいにく(幸い?)の雨模様だった。

 大津市職員将棋同好会は、昭和63年に発足して、会員は20名。毎週月曜日に定例会を開いて友好を図っています、とのこと。もっとも各職場では、昼休みにパチリパチリで会員外の将棋好きも多いとのことで、なごやかな空気が目に浮かぶ。

 会長(監督)の福井さんのご挨拶の後で、さっそく村山聖七段の三面指し指導対局が始まった。

 「村山聖七段の実戦指導を体験して、今日は香一本強くなれそうです」。世話をされている中川さんの抱負。

 駒落は慣れていないので、一夜漬けの人もいたそうだが、果たして結果は?

 「今日は僕が指導に専念しますから、支部勧誘のほうをお願いしますよ」。生意気な弟子にそうクギを刺されていたのだが、やっぱり私も指導に加わる。

 あっという間に三時間が過ぎて、下手2勝7敗の成績。北村さん、稲川さんのお二人が二枚落で村山七段に白星。

 私の方も下手2勝7敗で、吉川さんの二枚落、田中さんの飛落が白星。

 指導対局の後で記念撮影、色紙のサインとなり、プロジェクトの務めが終了。

 終わってから、共済会館びわこの二階、琵琶湖を望む外のビアガーデンで、バーベキューの小宴を開いていただいた。私は酒が入るとついつい口がすべるのだが、隣の卓の村山聖もにぎやか。

 こんなときはビールもうまい。

 雨でかすんでいたが、比叡山、比良山系もボンヤリ見える。

 「比叡山は京都でなくて滋賀なのですよ。それから大津には芭蕉のお墓もあります」。旅心がわく。

 話がはずんでいたが、ほどよい時間でお開き。まだごちそうがと未練顔の村山聖。「支部になるのは、すごくいいことだと思いますよ」とひとこと。

(以下略)

将棋世界同じ号より。

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森信雄七段と故・村山聖九段の師弟での指導対局。

とてもほのぼのとした気持ちになるとともに、この夏の日の出来事が非常に感慨深く感じられる。

村山聖九段が亡くなる4年前の夏。

5月の連休中に、また「聖の青春」を読み直してみたいと思っている。

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