内藤國雄二冠(当時)の大盤解説

3月末の引退を表明していた内藤國雄九段の現役最後の対局が1月12日に行われた。

将棋・内藤九段1000敗で引退 史上3人目の記録(神戸新聞)

今日は、内藤國雄九段らしさ溢れる大盤解説の様子を。

将棋世界1983年1月号、「将棋の日 関西将棋会館での開催」より。

 外はもうすっかり暗くなっている。それでもファンは帰ろうとしない。午後7時から始まる森安-桐山のA級同士の席上対局があるからだ。おまけに解説が内藤王位。これだけの豪華メンバーでは、帰れるわけがない。

(中略)

 いよいよフィナーレを飾るにふさわしい大物対決・森安・桐山両八段戦が始まった。さきほど関西棋士が居飛車党になったと書いたが、森安八段だけはガンとして振飛車党。

 本局も桐山=居飛車棒銀、森安=四間飛車の対陣になった。

「森安君はミスター四間飛車と言われるぐらい四間飛車しか指さない。彼とはよく呑むんですが、すぐ”オレは世界第3位の男”といばる。あっ、双眼鏡を持ってる方がおられますなあ。世界第3の男の顔をよく見てやってください」 話術の巧さでは人後に落ちない内藤。ファンもぐいぐい引っ張り込まれる。

「ここでこんな手を指してはいけないんですよ」と解説するのに、その手を指す森安八段にむかって、「指したらいかん!て言うのに」

 もちろん場内大爆笑。

「今年の初めにタイトル取るって宣言したんですが、原因はいろいろあります。その中の一つが森安君と酒を呑んだ時のことです。森安君が酔っ払って”あのね、先生。ボクにもレコーディングの話がきてるんですよ”って。で、どうするのかって聞いたら、”私もね、将棋がダメになったら吹き込みます”って言うんです。あれ、これだけ将棋のことがわかっている森安君が、そんな風にしか私のこと見てないのか」と発奮したのだと言う。その後見事に王位を奪回し、王座まで奪取したのは周知の事実。そして王位になった後に「また森安君と呑んだんですわ。そこで森安君、何言うたと思います。”ボクの言葉で発奮されたんなら、言わばボクが王位の生みの親ですな”」

 ファンはもう大満足のてい。こうしてにぎやかで楽しい将棋の日は午後9時過ぎまで続いたのである。

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新築されて間もなかった頃の関西将棋会館での将棋の日イベント。

大盤解説は、両対局者の間近で行われている。

内藤國雄九段の魅力溢れる大盤解説の雰囲気が伝わってくる。

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「オレは世界第3位の男」とは、森安秀光八段(当時)がこの時、順位戦A級で2位だったことに由来している。

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故・森安秀光九段は内藤國雄九段を兄のように慕い、内藤國雄九段は森安秀光九段を弟のように可愛がった。

内藤九段と森安九段というと思い出されるのは、森安秀光九段が亡くなった時の、内藤九段と団鬼六さんの文章。

涙が溢れてくる。

広い東京でただひとり、泣いているよな夜がくる

棋士だけの持つメリーゴーランドの世界