近代将棋1990年11月号、バトルロイヤル風間さんの「将棋ウィークリー観察記」より。
僕は衛星放送のチューナーもアンテナも持っていない哀れな人間です。そればかりか、貯金だとか愛だとか猫だとか、健全な人間生活を送る上で必要なものが欠如しています。その僕にNHK衛星第2の番組『囲碁将棋ウィークリー』を取材せよとの依頼。何かの間違いかいやがらせかと思いました。ただ前々から、その番組はどんなものか知りたかったもんで、これはいい機会だと思い、見てきました。
(中略)
で、その番組を見ないで、テレビの取材にいくつーのもなんなんで、前の週の「囲碁将棋ウィークリー」を後輩のエロマンガ家(RYO)にビデオをとってもらい見ました。ま、書きたくないけど、そいつの仕事場まで往復タクシーを使うわ酒おごるわ金落とすわで、あたしゃ、ほんとに、もう番組は面白かったなあ。
印象を一つだけ書いておきますと、週刊碁を読むのは相当苦労するので読む気しないけど、番組の囲碁部分はわからなきゃ流してるだけでもいいので、見れるもんだな。ということです。
私が見に行ったのは9月1日の土曜日。普通は日曜日の午後3時から1時間半だそうですが、何かあると変わるんです。この日は午後3時から5時まででした。ちなみに次の週は土曜の午前10時からですって。ゴクローサマです。そのまた次が午前8時半からだって。
スタジオは、将棋講座を収録するのと同じ108スタジオ。セットはブルーと茶を基調にしたしぶい色あいの落ち着いたもの。中心でしゃべるの(司会)は、食欲と話芸を基調に健康的な肌の色とギャグはちゃんと落ちのついたものをしゃべる神吉さんと、美貌とウィットを基調に清潔なお色気(?)と知性に裏づけされた落ちつきを持つ堤加蓉子(カメコうそカヨコ)さん。この方は元アマチュア女流本因坊にして、長くNHKの囲碁講座のアシスタントをされていた方で、囲碁の上村邦夫九段の奥様です。だもんで、上村九段が囲碁のニュースに出てくると、神吉さんがいちいちつっこみます。それを堤さんが「はいはい、またなの」という感じで受け流す、サラッとした感じが楽しい。で、本日のゲストは囲碁方が泉谷政憲六段。温厚な紳士といった印象。NHKの講師をおやりになり、息子さんもプロ棋士になって活躍しておられるそうです。そのことも番組中話題になっておりました。将棋方は、鈴木輝彦七段、通称テルテルはその名のとーり顔がテルテルです。(ウソばっか)うす茶のスーツが、セットの色調とぴったりで、計算してきたのかしらん。
番組の進行はといいますと、『司会者あいさつ→今日のメニュー→ゲスト紹介→今週のトピック→棋界情報(棋戦の動き)→今週の将棋(一局大盤解説風にやる)→今週の碁→まとめ→予告』とゆー具合です。
1時15分よりリハーサル、なごやかに始まる。
鈴木さんはトランプマジックの名人(素人から見ると)で、神吉さんも達人(同)で、リハーサル、神吉さん「東京きってのマジシャン」と鈴木さんを紹介する。ここで「大阪きってのマジシャンは神吉君」ときりかえしてくれなかったので、本番は、「将棋界きってのマジシャン」と紹介してはいました。んでもって、どっちがトランプマジックうまいのか聞いてみたところ、神吉さんは「そりゃ鈴木センセですよ」といかにも自分なんだけどという顔を造りながら言ってました。鈴木さんはニコッと笑うだけで答えませんでした。どちらも自分のがうまいと思ってるよーだな。ふむ。
今週のトピックスで、千葉の海が映る。「この海で多くの囲碁ファンがお亡くなりになられました。ご冥福をお祈りいたします」と神吉さん。今週の徳島の吉野川が映ると「この川で佐藤康光五段が亡くなられました。ご冥福をお祈りします」とギャグ。本番では「海の中で囲碁のセミナーをやるんですか?」「この川で佐藤五段ウナギをとったそーです」とかにかえていた。リハーサルには本番では使えないギャグをちゃんと言ってるところに、並々ならぬ肉量、否力量を感じました。
で、とんとんと35分でカメリハ終わる。
この間に沢さんにインタヴュー。沢っていっても沢口靖子でなく(ああ、誰か後ろから洗面器ではりとばして!)番組担当のディレクターの沢実さんです。
―何人ぐらいが見てるんですか?
「衛星放送はまだ視聴率が出ないので、何万人かなと思っている」
―時間は?
「日曜午後3時からが基本だけど、時々こうしてとばされちゃう。衛星放送自体がその時その時のイベントをやっていく自由な編成が方針なので、しかたないかなと。それだから名人戦や竜王戦の生中継もできるわけだしね」
―将棋と囲碁をいっしょにやるのは?
「ひとつひとつだけだとにぎやかさがなくなっちゃうんだよね。囲碁将棋ってかみあう部分も多くて。最近は『将棋だけにしろ』という投書も少なくなってきた。ねらいもわかっていただいたみたい。
―何か面白いですよね。碁のほうは座椅子があったり、対局者が盤をキュキュふいたりするの、絵でみるとわかりますもんね。で、あの異様に太った男のことなんですが…。
「神吉・堤コンビの評判もいいですよ!」
―いや、本当に面白いもんですね。神吉さんの起用というのは?
「企画がはじまる前からといったわけじゃないですが、これでいけと言われた時には、神吉さんだなと思いました。
―『手どころ』というフレーズは?
「碁のほうの用語で、部分的に面白いところといった意味です。将棋のほうの解説にもその言葉を使っています」
いよいよ生本番。スタジオの上のテレビのいっぱいあるサブ(副調整室)で見る。
5分前、3分前、神吉登場、2分前、神吉トランプをいじる。1分前、40秒前、30、20、10秒前、で◯。タイトルが映る。その間、何やら横(堤)にちょっかいを出す神吉が、別のモニターに映る。
「先週この番組のあと、師匠の内藤先生のレコード吹込みについていきまして、カツカレーとハヤシライスとサンドイッチを食べながら見てたんですが、2時間ずーっと歌うんですね、すごい」 よっぽどあんたのがスゴイ。
鈴木さんの自己紹介がてらのトランプマジック。神吉さん「キツネにつままれたよーな」だって、わざとらしいぜい。キツネをつまみにしちゃいそうな人が。
何かアクシデントが起こるよーに!と祈る僕。取材者なんてそんなもんさ。
棋界情報でトーナメントの表など出ると、どっちが勝つか、A級などは誰が降級するかなど、きついところをゲストに聞くのがパターン。この日は鈴木さん、振り飛車の使い手としては、今や小林健が森安以上だとリハーサルでは神吉さんに誘導されていたが、本番では、甲乙つけ難いと言ってました。
今日の将棋(王位戦)で、コンピュータ画面で解説するところで、待ちに待ったアクシデントが(コラッ)起こった!! ニュース速報のテロップが飛び込んできました。「イラクの日本人の女性と子供が今夜バグダットから出発へ」といったもの。盤面の下四分の一はかくれちゃった。どおする神吉宏充? ぴったりそこで解説をとめ、「心配されていたのでよかったですね。男性の方も早く出国されるとよいのですが。だいたいフセインちゅー男は生意気や、今度6枚落ちでふっとばしてやりまっさ」(後半ウソ)という具合に、臨機応変にさばきました。サブで、こーゆーところがいいとスタッフの方がほめてましたよ、神吉さん。
今週の碁の時、神吉さんサブへ来たる。その手にはトランプが。質問する。
―生ということで気をつけている所は?
「生なので前日は斎戒沐浴して聖書を読みます―ウソウソ、本番中が1番リラックスするんですわ」
―碁のこと詳しくなったでしょーね?
「碁のことは知らんよーにしてるんですわ。新鮮味がなくなるでしょ」
というと、トランプマジックに興じる神吉五段であった。んー、ぴったりの仕事をしはってんやな、この人。
そして、番組はなごやかに終わった。
画像で知る棋界情報、神吉のしゃべくり、堤の美貌に、将棋解説。内容豊富でいて気楽に見れる。うーん、こりゃ、衛星放送のチューナーとアンテナ、買いにいかなきゃいかんな!
塚田編集長、ということです。
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この頃の近代将棋では、月替りで棋士が編集長を務める企画となっており、この号の編集長は塚田泰明八段(当時)。
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「囲碁・将棋ウィークリー」はその後、→「囲碁・将棋ジャーナル」→「囲碁・将棋フォーカス」(ここからEテレで放送)→「将棋フォーカス」と「囲碁フォーカス」に分離、という変遷をたどっている。
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5月の連休の最後の日、バトルロイヤル風間さんと飲んだ。
バトルさんはこの日、大井町で行われていた「みんなハッピー!LPSA将棋パーク2015」で似顔絵コーナーを担当。
連休中ほとんど外に出ていなかった私は、その日の朝にバトルさんに電話をして、将棋パークが終わったら飲みに行こうということにしたのだった。
お昼頃、大井町のきゅりあんに行くと、将棋パークの会場は大盛況。
トークショーや船戸陽子女流二段-スパローズ大和一孝さんの記念対局など、いろいろと面白かった。
夕方から、バトルさんと大井町で飲み始める。
大井町は、想像以上に個性的な店が多く、休日にもかかわらずどの店に入ろうか迷うほどだった。
一軒目は狭いけれども美味しい焼き鳥店。二軒目は女性客が多く軽井沢にでも行ったような気分になれた肉バル、三軒目は中国料理店。
→大井町きゅりあんLPSA似顔絵【5・6】(バトルロイヤル風間の見物したり見物されたり)
三軒目の中国料理店はメニューが豊富で、五目焼きビーフンよりも担々麺の値段の方が安いなど、やや変わった値付けでかなり気になる店だった。
翌々日、バトルさんのブログを見て驚いた。
なんと、バトルさんは次の日も、この中国料理店へ行って、気になっていた定食(茹で鶏ネギ醤油かけ定食)を食べたというのである。
たしかに、この定食は別々に来た3人くらいの人がみな頼んでいたものだ。
もう一度、あの中国料理店に行ってみたい。私が試してみたいのは五目焼きビーフン、
→大井町ふたたび【5・7】(バトルロイヤル風間の見物したり見物されたり)
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今日の23:00からフジテレビ系で放送される『アウトデラックス』で、「将棋界のレジェンド対談」と題して、加藤一二三九段と神吉宏充七段が登場するという。
どのような展開となるか、見逃せない。