将棋世界1984年12月号、大野八一雄四段(当時)の「関東若手棋士 地獄めぐり」より。
先月まで、私から逃げていた若手棋士達は逃げるのを諦め観念したのかと思っていたところ今度はおもしろい行動に出始めた。こっそりと私の所に来て他人の秘密を教えてくれるのである。(勿論この欄に書くことという条件付きで)そしてその内容たるものは恥ずかしくて文章にできないものばかり。
(中略)
さて、今回はクリーン塚田泰明五段のバケの皮をむしり取ってやろうと思う。(はぐなんてなまやさしいものではありませんぞ)
棋士の血液型(塚田の弁護)
本論に入る前に血液型について少々話しておきたい。(私は最近、こっているんです)
世間一般のB型に多いタイプとして、「物事に余りこだわらない」「自由を好み束縛されることを嫌う」「気さくな人が多い」などとデータは物語っている。(良い表現ばかり並べたのだが、言葉を換えれば◯◯なんですよ)
では、将棋連盟のB型はどのようなタイプになるかというと、自己顕示欲が強く極端な負けず嫌いで発言が過激、抑えまるなし人間が多い。(代表選手の名前を例としてあげようとも思ったが恐いからやめとく)
塚田泰明はこのB型なのである。仲間は彼の事を典型的なB型だとよく言うがそれは対局中だけで、日常生活などは几帳面なA型的人間である。
私はこの夏、将棋を離れて初めて塚田という男と行動を共にしたのだが、予想していたのと違い、ものすごく神経質で身の回りにゴミなどが落ちていたらすぐかたづけるし、何をやるにしても丁寧。礼儀も今どきの若い者と違いきちんとしている。そして私の事を先輩先輩と慕ってくれるかわゆい後輩なのだ。皆様、塚田は本当にいい奴ですよ。かわいがってあげて下さいね。
背後霊、塚田
これは島五段がこぼしたグチである。
「塚田はズルいよ。僕が女の子に声をかけ、ふられて落ち込んでいると必ず後ろには塚田がいる。うまくいった時にもいる。つまり奴は、自分では女の子に声をかけられないので、僕がナンパした時に便乗しようとして後ろに立っているんだ。こっちも警戒しているんだけど話に夢中になっている隙に疾風のようになってきて気がつくと後ろに立っている。あの執念には恐れ入るよ」
何と要領のよい話ではなかろうか。全国のナンパ野郎さん達、気をつけて下さい。後ろを振り向くと塚田がきっと立っていますよ。背後霊のように!
塚田の謀略
今年の夏、塚田は将棋世界の依頼で高校選手権のレポーターとして取材に行った時、彼はその立場を利用し、男子の方などはほとんど取材せず、女の子の方ばかり丁寧に密着取材したという。
そして大会終了後、指導対局に来ていたS五段に「気に入った娘がいるので誘い出して下さい」と頼んだ。S五段がその娘を呼んで来たのはいいが、何と彼女の後ろから10名位の女の子がついてきてしまったのだ。これにはさすがの塚田もたじろいだが、いまさら後には引けず結局総勢12名で(当然S五段も一緒)ディズニーランドに出かけたのだった。
彼はそこでその娘と二人きりになるよう努力したらしいのだが、女の子同士の友情?は強くいつでもみんな一緒にいる。その結果、話すらもほとんど出来ずじまいだったという。
結局、女の子達に適当に遊び回られ、何の成果も得られず、現金7万円也だけはしっかり払わされ、「今日はどうも有難うございました」の合唱だけを聞く破目になったのだった。
女の子達と別れた後、「今日は釈然としない」と嘆いていた塚田であったが、数日後、女の子の中の一人(先輩格)から礼状をもらったらしい。その時彼はこのチャンスを逃してなるものかと早々に手紙を出した。「気に入った娘がいるんですが何とか紹介してもらえませんか」と。
すると、「文化祭の時に来ていただければ、案内させるようにしておきます」という信じられないような幸福な手紙が送られてきた。
しかし私は、その後、塚田とその手紙を出した子の悪だくみがどうなったのかは知らない。
攻めの塚田
最後に恒例の将棋で締めくくりたい。
塚田将棋といえば無理は通らなくても塚田の攻めは通るとか、塚田が受けに回ればおしまいとか言われる程の攻め将棋であるのは皆様御存知であろう。
その塚田が、あ\最近渋い指し回しを見せた将棋を紹介してみよう。1図は、塚田が交換を強要し、△5五歩と突いたところ。いつもの軽いジャブだ。
この局面までに先手の指し手に疑問があったとはいえ、急戦矢倉からの足の速い動き、これこそが塚田流である。
そして2図。
うまい指し回しを見せた塚田が次に指した手は△6五銀。この手は盤上この一手のような味のいい手で以下▲3八金△5四銀▲3五歩△5三歩といなしながら陣形を強化させ、一番いい時期を見計らって△4五歩から圧勝した。
この将棋を見た感想を言わしてもらえば、以前なら強引に動き回り力で相手をねじ伏せることが多かったが、うまい具合に相手の力を利用し自滅へと追い込んでいる。そしてその後は一手のゆるみもなく最短距離でつぶしたのは見事という他はない。
塚田の強さだけがやけに目立った一局であった。
——–
東京ディズニーランドがオープンしてから2年目の出来事。
ディズニーランドに連れて行ってもらった女子高生たちは、塚田泰明五段(当時)の思惑とは別に、本当に喜んだことだろう。
ここに出てくるS五段とは、当然のことながら島朗五段(当時)。
——–
塚田五段が高校選手権のレポーターとして取材に行った時の記事を見てみたい。
将棋世界1984年10月号、塚田泰明五段の「第20回全国高校将棋選手権大会 団体戦は麻布と高崎市女」より。
今年で20回を迎える高校選手権は8月17、18の両日、東京は晴海の「東京ホテル浦島」で行われた。
編集部の鈴木氏より、「今回は女の子を中心に書いて下さい」との注文があったので、そこのところを御了承願いたい。(編集部注:いや、これは塚田五段の趣味です)
僕がこの取材をする、と高校選手権の指導に来る事になっている島五段に言うと、
「えーっ塚田取材に来るのー、存外でしょう」(存外とは普通「案外」と同義語で用いられるのだが、この場合は連盟の造語で、「ひどい」という意味を持っている―筆者注)と、何か恐れている様子。大丈夫ですよ島さん。僕は本当の事しか書きませんから。
開会式では大山会長の挨拶、福井代表武生高校の兵庫真一郎君による選手宣誓等があり、松田九段の合図で対局が開始された。
(中略)
男子は団体戦と個人戦が並行して行われ、女子はまず団体戦から始められた。
男子に比べて女子の方は指し手が早い。30分では短いんじゃないかと思っていたが、すぐ勝負がついてしまう。取材に遅れてはまずいと思い行ってみると、「やった、やった」の声。
豊島岡女子学園(東京)と土佐(高知)の女子団体戦で豊島岡が勝ったのである。
団体戦は3名が対局するのだが、豊島岡はその他に5人が個人戦に出る事になっていて団体戦では周りで熱心に応援していた。応援量の勝利と言えるかもしれない。勝利者インタビューをしてみた。
学校は池袋にある。将棋部は必修クラブで部員数8名。週2回の部活動だそうだ。
高校選手権は4回目の出場で、団体戦では今回の1勝が初勝利だそうだ。その感想と今大会の抱負を聞くと、「初めて勝ったからくれしい。2回戦では1人ぐらい勝ちたい」と、謙虚な発言。それもそのはず相手は去年の団体戦優勝チーム高崎女子なのだ。
しかし、個人戦は、「8人がみんなベスト8に入りたい」と頼もしかった。
今回僕は取材のみで、写真の方はカメラマンの中野氏にお願いしてあるのだが、その中野さんのそばでカメラを持ってうろうろしている女の子がいた。豊島岡の◯◯◯◯子さんで、何か将棋を指すより写真を撮る方に忙しそうだ。
島五段が会場の入口あたりで私服の女性2人と話をしているので行ってみた。この2人は豊島岡のOGで応援に来たそうだ。あっそういえば去年も指導に来ていた島五段。知り合いなわけですね。
その一人である□□□子さんにインタビュー。
(以下略)
——–
全体的にはきちんと要点がまとめられたしっかりとしたレポートなのだが、引用した部分を中心とした豊島岡女子学園に関する記述がいかにも取って付けたようで、とても笑えるとともに微笑ましくなる。
豊島岡女子学園は、東大合格者数30名(2015年)を誇る都内でも有数の進学校。
——–
よくよく考えてみると、ディズニーランドの入場料のことは別としても、10名も女子高生が来てくれたのだから、大局的には喜ばしいことだと思う。
塚田泰明九段は、1989年12月の段階で、ディズニーランドに10回行っていたほどのディズニーランドファンだ。