H三段(当時)の証言

近代将棋1989年10月号、池崎和記さんの「福島村日記」より。

某月某日

 日本海旅行から帰ってきたばかりの東六段と関西将棋会館でバッタリ。「どうでした」と聞くと「よかったですよ。料理もうまかったし」。「南さんも旅行に行ったらしいですね。久美浜に泳ぎに」と私が言うと東さんは「一緒に行ったH君(奨励会三段)から聞いたんやけど…南先生は、浜辺で一日中、正座してたらしいですね」「正座?まさか」 いくら何でも泳ぎに行って”正座”はないよね。そこへ当の南王将(顔が日に焼けて真っ黒)がやってきたので、さっそく真偽のほどを聞くと「一日中なんて、ウソですよ」とのこと。「それなら、少しはしたというわけ?」とさらに追求すると「ええ、ちょっとだけ……」。やはり本当だったのだ。南さんの”ちょっとだけ”は凡俗の”ちょっとだけ”とはスケールが違う。はっきり教えてくれなかったが、私は”最低5時間”と見ている。

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この頃、関西でH三段というと、畠山成幸三段(当時)と畠山鎮三段(当時)の二人だけ。

その後の池崎和記さんの記事での登場の傾向から見て、H三段は畠山鎮三段である可能性が高い。

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久美浜は、京都府の北西端、兵庫県との県境に位置し、現在は京丹後市となっている。

久美浜湾は、日本海沿いに広がる潟湖で、山陰海岸国立公園に含まれている。

海水浴場は潟湖ではなく外海に面している方で、100m沖合で水深1.3mの遠浅であり、約6kmに渡って白砂青松のロングビーチが続いているという。

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久美浜の海水浴場の写真を見ると、景色も良さそうなので、海に入らずにボケッと海を眺めていても楽しめそうな雰囲気だ。

南芳一王将(当時)が浜辺で推定5時間以上正座していたのも、正座が適切であったかどうかは別としても、気持ちがわかるようか感じがする。

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サンフランシスコから南に約190km、クリント・イーストウッドが市長を務めたこともあるカーメルという街がある。

出張でモントレーへ行った時の休日に、隣町であるカーメルへ足を伸ばしたことがあり、この時の海岸が絶景だった。

1日中、何もせずにこのままボケッと海を見ていたいな、と思えるほど。

頭の中で鳴り響くのは、「カリフォルニアドリーミング」でも「サーフィンUSA」でも「カリフォルニアの青い空」でもなく、「ホテル・カリフォルニア」だった。

2月なのに明るい太陽。このような場所で生まれ育ったら、絶対にミュージシャンになるだろうな、などと、不思議なことばかり考えていた。