「お前はもう死んでいる」というような中盤の一手

将棋世界1971年1月号、内藤國雄八段(当時)の連載講座「駒の交換」より。

或る決闘

― 一閃、櫂と太刀を交えさっと別れた二人。

 一方の鉢巻は額で割れて落ち、それを見て相手は笑みを浮かべた。だがその直後血へどを吐いて倒れたのは笑みを浮かべた方だった―

 御存知、武蔵と小次郎巌流島の決闘である。

 駒と駒の激しいぶつかり―交換は正に太刀を切り結ぶ時に似ている。盤上に火花が散るのもこの時である。

 不注意な駒の交換はそれまでに要した布陣の苦心を水の泡にしてしまうだけでなく、しばしば取り返しのつかない深手を追わせてしまう。かといって臆病に駒の衝突を避けてばかりいては次第に窮地におちいってしまうものである。

 要するにここぞと思う所では大胆に、且つ細心に駒の交換を買って出るべきである―とまあ云うだけのことならやさしい。

 駒の交換にあたってどのような点に注意すべきか、基本的なもの重要なものは何か、そういったことについてこれから学んでゆきたいと思う。その前に次の実戦譜を見ていただこう。

或る名人戦

 1図は後手△5六歩と「垂らしの歩」を打った局面、名人戦に生じたものである。

 このあと先手は▲5五歩と打ち双方徹底的な取りあいが始まり1図より19手ののち、後手が投了した。切り合いを買って出た△5六歩の手ですでに勝負がついていたということになる。

内藤1

1図以下の指し手
▲5五歩△4五歩▲5四歩△4六歩▲6三銀△5七歩成(2図)

▲6三銀に後手△5七歩成とあくまで取り合いに出た、というのもここではもう、せきとめることが出来ない急流になっている。たとえば△5七歩成の手で△7三飛と受けに廻る手は▲5二とがある。以下△6三飛▲4二と△同金▲7四金△6一飛▲6四金△同飛▲7五角。

 2図では特に双方の玉型の差に注目していただきたい。

内藤2

2図以下の指し手
▲7四銀成△6八と▲6四成銀△5八と▲5三歩成△4九と▲4三と△同金▲5四銀△同金▲5二飛△3三玉▲5四成銀(3図)にて先手勝ち。

内藤3

 3図では後手△3九とだと即詰めがある。

 △3九と▲4三金△2四玉▲2五歩△1三玉▲2二飛成△同玉▲3一角以下詰み。

 勝敗を決したのは玉型の差である。先手側、玉のふところの広さはこの種の直線的交換を非常に有利にしている。

 最終図(3図)で△3九とと来られても王手にならないところが味噌。

(以下略)

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本局は調べてみると、1969年4月の名人戦、大山康晴名人-有吉道夫八段(当時)戦。

1図の△5六歩に対して▲5五歩と指されて、既に後手は手遅れというのだから凄い。

漫画『北斗の拳』の主人公・ケンシロウが「お前はもう死んでいる」と言っているのに等しいような▲5五歩だ。

お互いが一本道で駒を取り続ける。

意地や気合ではなく、それが一番正しい順だから。

たとえば2図の△5七歩成を▲同歩と相手にしたりすると、変化手順に示されている△7三飛▲5二と△6三飛▲4二と△同金▲7四金△6一飛▲6四金△同飛▲7五角の、最後の▲7五角が指せなくなってしまう。

とにかく壮絶な一本道だ。

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私だけかもしれないが、宮本武蔵と佐々木小次郎について、巌流島の決闘以外のことをほとんど知らない。

NHKの大河ドラマでも2003年に「武蔵 MUSASHI」が放映されていたようだが、私は一度も見ていない。

私の大河ドラマの傾向ははっきりとしていて、今世紀に入ってからでも、(◯…ずっと見ていた △…途中で脱落 ☓…はじめから見ていない)

2001年 北条時宗 ◯
2002年 利家とまつ ◯
2003年 武蔵 MUSASHI ☓
2004年 新選組! ☓
2005年 義経 ◯
2006年 功名が辻 ◯
2007年 風林火山 △
2008年 篤姫 ☓
2009年 天地人 ☓
2010年 龍馬伝 ☓
2011年 江 △
2012年 平清盛 ◯
2013年 八重の桜 ☓
2014年 軍師官兵衛 ◯
2015年 花燃ゆ ☓

という具合。

戦国大名系、源平系は大好きだけれども、明治維新系が大の苦手。宮本武蔵を見なかった理由はわからない。

来年の「真田丸」は非常に微妙な路線だが、今回調べてみると、主人公の堺雅人さん以外にも、

織田信長=吉田鋼太郎
豊臣秀吉=小日向文世
上杉景勝=遠藤憲一
大谷吉継=片岡愛之助
真田昌幸=草刈正雄
本多正信=近藤正臣
北条氏政=高嶋政伸

などの超個性派俳優をはじめとして豪華キャスティング。

きっと見ると思う。