将棋世界1995年11月号、内藤國雄九段の連載エッセイ「将棋の魔性」より。
暗い、ださいといわれてきた卓球が、若い人の間で人気を盛り返しているという。
テレビ取材によると東京のあるところでは、夜の11時になっても待ち時間が40分という盛況である。「卓球のどこがいいのか」という質問に「トレンディだから」とギャルが答えていた。我々に分かる言葉に直すと「いい恰好だから」とか「粋だから」ということになるらしい。調べてみるとトレンディというのは便利な言葉で、なぜやるのかという質問には「トレンディだから」で大抵の場合は一応の返事になる。
子供のときからスポーツらしいものはなに一つしたことのない私だが、卓球だけは時折やっていた。その体験から思うのは、これは家族とか親しい人と楽しくやれるゲームだということである。
ふだん卓球などやらない恋人同士でも卓球場の前を通ってその気になれば出来る。
(中略)
なぜ楽しく遊べるかというと、腕が大体において皆ちょぼちょぼだからである。きついボールで決めてやろうとすると、入ることより飛び出してしまうことが多い。そういうレベル同士の勝負だから楽しいのである。
以上のことを書きながら、私の脳裏には将棋との比較がずっとあった。
将棋の場合、ルールを覚えたての二人が対戦すると、いつまでたっても勝負がつかず、とてもゲームを楽しむ状況にならない。
「暗い、ださい」とは将棋についても言われた言葉である。だから若い人向きではないと。このイメージは、いまは大分変わってきた。まだ将棋がトレンディだとは聞かないが、ギャルファンの存在がその一つのバロメーターだとすれば、将棋もある程度は「その気」が生まれてきているといえるかもしれない。
羽生君の婚約発表で追っかけギャルが激減したという。これで女性ファンが消えてしまえば元の木阿弥だが、最近は将棋の催しにも女性層が意外に多く、女性ファンも定着しつつあるという気がした。
追っかけギャルについてだが、これは羽生六冠王に突然生じたもので、それまでのトップ棋士には見られないものである。そういう人達と会って、「どうして我々のときはなかったのだろう」という話になった。
誰かが「コマーシャルでテレビによく出ているからではないですか」と言ったら、「いや私もテレビにはよく出ましたよ」。
それでも、ギャルは来なかった。羽生君はやはりこれまでにないトレンディな棋士なのであろう。
(つづく)
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羽生善治六冠(当時)がマスコミに多く取り上げられるようになったことが一番大きかったのだろうが、やはりテレビCMから入った女性ファンも多かったと思う。
1995年当時の羽生六冠のテレビCM。
まずは、明治ブルガリアヨーグルトから。
そして公文式。
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いろいろと探しているうちに、この更に12年前の林葉直子さんのCMも発見。
これも素晴らしい。