「木村さんの方によりフレッシュさを感じざるをえないところがあります」

将棋世界1999年6月号、「第26回将棋大賞」より。

選考委員は(順不同、敬称略)、

古作登(週刊将棋)、風間博美(NHK)、高林譲司(三社連合)、渡辺久和(スポニチ)、東公平(日刊ゲンダイ)、黒済正義(山陽)、小田尚英(読売)、松本治人(日経)、山村英樹(毎日)、佐々木賢介(朝日)、奥田裕(産経)、橘孝幸(共同通信)、島田良夫(テレビ東京)、田中英明(赤旗)。司会は大崎善生編集長(当時)。

新人賞

司会 続いて新人賞の選考に入ります。

古作 私は三浦さん。申し分ない実績です。現代の青年とは違った親身あふれる人間性で、将棋も魅力的です。

風間 NHK杯のベスト4にフレッシュなトリオが残ったんですが、いろいろな棋戦で活躍して14連勝も記録しているのが、久保さん。三浦さんとどっちかなと思いますが、久保さんを推薦します。

高林 木村一基さん。1年間コンスタントに勝っていて、順位戦でも昇級、王位リーグにも連続して入っています。

渡辺 対局数・勝ち数・勝率と平均して上位にいるので、三浦さんを推します。

東 三浦さんは元棋聖なので敢えて外して、木村さん。勝ち抜き戦で羽生、北浜、屋敷、森下に連勝したのも価値があると思いますし、棋聖リーグにも入っています。何か大物という感じがするので。

黒住 三浦さんは七冠の一つをとったことがあるので、イメージ的にどうかなと思います。今年は敢えて該当者ナシではどうかと、議論のために発言します。

小田 候補は大勢いて悩みましたが、木村さん。理由は東さんと同じです。

松本 私は野月さん。新人賞は、将来性とともに、その年の旬の人を推すべきだと思います。野月さんは、早指し戦でもベスト8進出。新戦法の横歩取り△8五飛の使い手で、高勝率を挙げて印象度が高い。それと、1年間に6回ヘアースタイルを変えて、DA PUMPを思わせるような鮮烈な印象を与えて、これからのビジュアル系棋士の先駆けということで。

山村 私は木村さん。最後まで勝率1位を争う活躍で、将来有望と思います。

佐々木 私は杉本さんを挙げます。振り飛車一筋で、「相振り革命」という本も書いています。この間、朝日アマの全国大会に行ったら、相振り飛車が大流行なんです。影響力があったということで。

奥田 私は三浦さん。棋聖をとられた後不調だったんですが、努力してよく立ち直ったのを認めてあげたい。

橘 三浦さんか、木村さんと思ったんですが、記録面の僅差で木村さんに。

島田 一昨年殊勲賞をとっている三浦さんは、新人賞という感じではない気がします。さっき該当者ナシという声があって、私も悩みましたが、なるべき賞を差し上げた方がいいというこれまでの趣旨から、敢えて候補を挙げれば、野月さんか、木村さんかなと。

田中 私は三浦さん。去年の藤井さんもそうでしたが、今年が最後のチャンスじゃないかと。三浦さんの将棋は野性味があるというか、フレッシュな感じがするんです。もう一人、テレビで活躍して人気のある堀口さんも浮かんだんですが、将棋の中身で三浦さんかなと。

司会 4名が三浦さん、5.5名が木村さん、1.5名が野月さんを挙げています。島田さんが0.5票ということで。あとは久保さん、杉本さんを挙げた方が1人ずつです。三浦さんと木村さんに絞った討論になると思いますが。

松本 三賞をとってから新人賞を受けた方はいないんですか。

司会 今まではいません。

古作 それがひっかかるんですが、三浦さんは最後のチャンスかもしれないので。

小田 逆に、最後のチャンスという方は、もう新人賞じゃないような気がしますね。実績的には何の異存もないんですが。

風間 三浦さんと木村さんに絞るなら、僕は三浦さんを推します。今まで新人賞をもらってないのが不思議でしょう。

佐々木 新人王戦に優勝したから新人賞にはピッタリな感じですね。ただ、私が三浦さんの観戦をした時に千日手が非常に多くて、千日手王はフレッシュなのかなと、少し疑問に思いますが(一同笑)。

松本 私は、野月さんがダメなら、木村さんが一番相応しいと思います。

司会 では、三浦さんか木村さんかで、決選投票を行います。

東 アイドル賞を作って野月さんや堀口さんにあげるのはどうですか(一同笑)。

奥田 ビジュル賞も(笑)。

司会 開票の結果は、三浦さんが7票、木村さん7票の同数ですので、私が一票投じることになりますが、木村さんに。三浦さんは、成績的にも性格的にも(笑)新人賞に相応しいんですが、木村さんの方によりフレッシュさを感じざるをえないところがあります。それでは新人賞は木村一基五段に決定します。

特別賞

司会 続いて特別賞です。

松本 女流棋界25周年ということで、蛸島彰子さんを推薦します。

風間 亡くなった方でも、いいんですか。村山さんに何か差し上げたいと思っているんです。特別賞でも東京将棋記者会賞でもいいんですけど。

島田 記者会賞の方は追贈の例があるんです。渡辺東一さんと花村元司さん。

高林 特別賞の方がいいでしょう。

小田 私も賛成です。

司会 それは、ちょっと胸を打つものがありますね。それでは、村山聖九段に特別賞を追贈することに賛成の方は挙手をお願いします。満場一致で、故・村山聖九段に特別賞を追贈することが決まりました。

(以下略)

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伯仲する討議、最終投票で7票対7票になるのだから、ものすごい激戦。

大崎善生さんの、「三浦さんは、成績的にも性格的にも(笑)新人賞に相応しいんですが、木村さんの方によりフレッシュさを感じざるをえないところがあります」が、面白い表現だ。

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新人賞。獲得していそうでしていないのが、村山聖九段、藤井猛九段、、三浦弘行九段、広瀬章人八段。

怒涛の勢いでタイトル戦挑戦やタイトル獲得をして、新人賞以外の賞となっているケース。

最近では、A級昇級した稲葉陽八段、複数回タイトル戦挑戦の中村太地六段、新人王戦優勝の阿部健治郎七段、阿部光瑠六段が、受賞していそうで受賞していない。

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伯仲した投票結果ということでいうと、現地時間6月23日のEU残留か離脱かの英国の国民投票。

個人的には、英国がEUに残留するかわりに、英国にとって更に有利な条件をEUから引き出すやり方だってあったのではないかと思うのだが、0か1かの選択肢。

いろいろと、なかなか厳しい。