モデル事務所に所属していたことがある森けい二九段

将棋世界1991年3月号、「棋士交友アルバム 山本リンダさん&森けい二九段の巻」より。

森 「こまっちゃうな」の大ヒットは20何年前でしたっけ。あれば好きな曲で時々口から出ちゃうんです。とくに将棋の形勢が苦しいとね。

リンダ 将棋は知らないんです。でも子供の頃は、近所の人とハサミ将棋やお金将棋でよく遊びましたね。以前バンドのパーカッションさんで、将棋がとても好きな方がいましたよ。たしか、ラリーさんって・・・。

森 その名前、どこかで聞いたことがあるな。

リンダ いつも背中に将棋盤を背負っていて、その格好で各地を移動するんです。

森 それは相当な将棋好きだ(笑)。

リンダ 将棋界は先輩後輩の区別が厳しいですか。

森 先輩には礼儀をもちろん尽くします。でも盤上の戦いは対等です。

リンダ 私は中学生の頃にモデルの仕事をしていたんです。ファッションショーで地方へ行った時は、風呂は一番あとに、鏡は一番奥のものを使えと、先輩にいわれました。

森 僕もモデルだったんですよ。

リンダ エッ、そうなんですか。

森 19歳の頃、セントラルファッションというクラブに半年間所属しました。

リンダ 私はミユキモデルクラブです。

森 当時は奨励会三段で、まだ一人前の棋士じゃなかった。そこでバイト代わりにと思って、オーディション受けたら合格しちゃったんです。

リンダ どんな内容のお仕事でした。

森 何十倍の競争率でモデルになったのに、来る仕事は端役ばっか。スーツのCMではヨレヨレの服を着て、主役の引き立て役でした。

リンダ まあ、お気の毒に(笑)。

森 モデルの仕事はやたら待ち時間が多くてね。それで日当がわずか600円か700円。そのうちバカバカしくなっちゃった。ゴルフ場でキャディをしたり、ダンス学校に通って講師の資格を取ろうともしました。そう、ボウリングのプロも目指したんだ。

リンダ 苦労したんですね。ボウリングは当時大変なブームでしたね。

森 ボウリングは週に5日やり、1日で20ゲーム投げましたね。アベレージは190ぐらい。第一人者の矢島純一プロをいつか絶対に抜いてやると本気で思っていて、実際にプロテストを受けるつもりだった。ところがその日が将棋の対局日とかちあったんです。迷いましたね、どちらを選ぶか。結局、将棋を選んだ。結果的には、それでよかったなあ(笑)。

リンダ 将棋のプロの資格は、どうやって取るんですか。

森 奨励会という棋士の養成機関があって、そこで四段になればプロ棋士として認められます。

リンダ 私は小さい頃から歌が好きで、中学3年の時にコンテストに出たのがきっかけで芸能界にデビューしました。その点では、森さんほど苦労していませんね。でもデビューして2年ぐらいたったら、ヒット曲が出なくなったんです。自分自身は成長しているのに、ファンxは「こまっちゃうな」のイメージを持ち続けているのね。そのギャップに複雑な思いをしました。

森 「どうにもとまらない」という、すごく激しいリズムで歌って踊る曲がありましたね。

リンダ あれはデビュー6年後の昭和47年です。振り付けは一の宮はじめ先生で、前のイメージを破るために歌ったんです。これしかないと必死にキャンペーンをしました。

森 キャンペーンは大変なんでしょ。

リンダ 地方のレコード屋さんの店舗なんかでPRするんですけど、立ち止まってくれる人が少ないの。レコード10枚売るのがとても大変でした。でのその苦労が実ってヒットしたんです。名古屋のデパートの7階でサイン会をしたら、マネージャーが1階までファンが並んでいるよって。あの時は本当にうれしかった。

森 あの曲の題名は流行語になりましたね。いつだったか、テレビドラマの「スーパーガールに出てたでしょ。面白くてよく見ましたよ。

リンダ 最近はミュージカルやお芝居の仕事が多いんです。

森 セリフまちがえませんか。

リンダ 時にはあります。でもお客様が気づかないように、ミスをかくすのがプロなんです。

森 将棋でもそう。悪手を指してクヨクヨすると相手を調子づかせるし、また悪手をやりかねない。カゼひいても、相手に気づかせないように平気な顔をしています。

リンダ 私はお客様の前では、どんなに疲れていてもシャキッとするようにしています。仕事柄、カゼは絶対にひけませんね。ノドが大事なので必ずウガイを。それからホカロンを体に入れ、スカーフを首いっぱいに巻きます。家に帰ったら猫みたいにまんまると(笑)。

森 僕の健康法は、サウナに入って汗をかいて寝ちゃう。これが一番。泳ぐのが好きでスポーツクラブによく通います。シュノーケルつけて海にもぐり、魚を見るのも楽しい。ニューカレドニアには3回行きましたよ。

リンダ 私も泳ぐの好き。沖縄のサンゴはきれいね。

森 生きているサンゴはピンク色ですもんね。

リンダ 今年は芸能生活25周年なんです。記念CDを出しますし、10月に新しいシアターアップルでミュージカルをやります。ディナーショーではシャンソンも歌うつもりです。とにかく一生歌い続けていきたいと思っています。

森 僕の目標は名人!いつかきっと取ります。

リンダ がんばってください。

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「棋士交友アルバム」は、初対面で行われることの方が多かった。

山本リンダさんと森けい二九段のこの対談を初めて知った時、なんと意外な組み合わせなんだろうと驚いた。

しかし、よくよく考えてみると、

森けい二九段は1946年生まれで四段昇段は1968年、

山本リンダさんは1951年生まれで歌手デビューが1966年、

と、非常に年齢的・時代的にバランスが取れていることに気がついた。

本当の同世代と言っても良いだろう。

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モデル→ダンス学校講師→プロボウラーという森けい二九段が奨励会時代に志向したアルバイトの方向性が、当時としたら不良っぽくて、とても魅力的だ。

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森けい二九段が対局中に「困っちゃうな~」と、山本リンダさんの「こまっちゃうナ」の出だしを歌うのは、森九段ならではの場面がリアルに想像できて、とても可笑しい。

こまっちゃうナ(YouTube)

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山本リンダさんの「どうにもとまらない」は、作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一の、山本リンダさんが大ブレイクした曲。

どうにもとまらない(YouTube)

歌詞の最後の、「もう どうにもとまらない」と、最終盤の寄せの局面で歌えば、相手を戦意喪失させること間違いなしだ。

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山本リンダさんの「狂わせたいの」の出だしは、女性が対局中に歌えば効果抜群。

「ぼやぼやしてたら 私は誰かの いいこになっちゃうよ」

相手が男性で、これから寄せられそうな局面で口ずさめば、相手が焦って寄せを間違う確率90%と推計したい。

狂わせたいの(YouTube)