将棋世界2000年2月号、森下卓八段(当時)の連載自戦記「8五飛最前線」より。
藤井システムと8五飛戦法は、現代将棋の最先端を行く戦法だ。しかも、両戦法とも一局ごとに進化していると言っても過言ではない。また、両戦法が棋界に与えた影響も計り知れない。
藤井システムと8五飛戦法は、その斬新性と影響力において、世紀末における二大革命といえるが、両戦法は根幹において全く異なることがある。
それは、藤井システムには定形があるようでなく、8五飛戦法にはハッキリした定形があることだ。
藤井システムに定形がないことは、藤井竜王が一局ごとに微妙に手順や形を変えることからもわかる。
対して8五飛戦法には、誰にでもわかる定形がある。
さて、藤井システムの論評は別の機会に譲るとして、この8五飛戦法、全く恐ろしい戦法である。その勝率の高さもさることながら、一局毎に新手が出ているのではないかと思わせる程の進化のスピードだ。
昨年の秋に「8五飛戦法」と題して、8五飛戦法の定跡書を著させて頂いたのだが、このわずか2、3ヵ月の間に、何箇所か結論を書き換えなければいけないのではないかとさえ思われた。
この恐ろしい8五飛戦法の生みの親は、中座飛車とも言われるように中座四段。
そして8五飛戦法で最も勝ち、その怖さを見せつけたのは丸山八段だろう。
(以下略)
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藤井システムを初めて見たとき、これは居飛車感覚の将棋だと思った。
私のようなアマチュアの振り飛車党は、はじめはひたすら美濃囲いに囲って、その後は心置きなく戦いに集中する、といったことに喜びを感じるタイプが多いはずだが、藤井システムはそのような構造ではなく、最初から臨戦態勢。
大局的な狙いは理解できるのだけれども、とてもではないがアマチュアが指しこなせない戦法だと感じた。
8五飛戦法は大局的な狙いが理解できない戦法だったが、藤井システムに比べれば途中まで真似はしやすい戦法だった。とはいえ、やはりアマチュアが指すには難しい戦法。
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どちらも世紀末とかミレニアムとか言われた時期の前後数年間に渡って猛威を振るい続けた戦法。
藤井猛竜王、丸山忠久名人の誕生の原動力ともなった戦法だ。
2000年問題、ミレニアムというと、この二つの戦法の名前が頭の中に浮かんでくる。
世紀末というと、櫛田陽一七段の世紀末四間飛車が連想される。