月刊宝石2002年2月号、湯川恵子さんの「将棋・ワンダーランド」より。
新年おめでとうございます。
ちょうど新春特別企画にお呼ばれしたので聞いてください。対局者は高木祥一九段、上村邦夫九段、武宮正樹九段、工藤紀夫九段、そして小林光一碁聖。そう、碁界のこの先生方が将棋を指した。
近代将棋社が企てた新年号の企画で近将チームと棋院チームの対抗試合。対局場は新宿の料理屋。特別立会い人は中原誠永世十段だった。
私は近将チームの一員で武宮九段と当たった。”宇宙流”の先生、将棋も自在な駒組みなのにバランスよく中盤は攻めっ気盛んに急所急所と迫ってくる。
「僕って筋いいでしょ、筋は」
と朗らかに自慢していた。その朗らかさに乗じて私が勝負手一発で騙したかっこうだった。高木九段と上村九段は昔から将棋界にも知られた指し手だ。永井英明さんと団鬼六さん相手にそれぞれ勝った。工藤九段は近将チームの親分(ナイタイ社主の円山和則氏)が相手だったので「恐れ入りました」――。
さぁ2勝2敗で残る1組は。
いま”小林光一”をインターネットで検索したらどどっと出て来た。タイトルは数え切れない。名誉棋聖、名誉碁聖、名人七連覇、五冠王などの文字をあわてメモした次第。この碁界の大スターが将棋を!?
棋院の将棋大会が5年に一度くらいあり、安倍九段、林海峰九段、陽兄弟、小松九段など、大勢参加しているが小林コーイチは見かけたことがない。
主催者に聞くとこの対抗戦は年1度の3回目。小林碁聖は例年メンバーの林海峰先生が都合つかず、棋院側幹事の上村九段が出した代打ですって。
相手は芸能界トップの将棋好きだろう俳優の石立鉄男さん。敵の口三味線も聞こえていないのか小林九段は、シーンと唇引き結んで指した相振りの一戦。第1図で、▲2六歩!
普通2筋の歩交換は後手側が(飛車が2筋に居て)指すものだ。なんと機敏な斬新な発想。これで”コミ”分くらいポイントあげたと思う。本業では地に辛いことで有名なコーイチ流。最後は角・金・銀の盛大な駒得で”中押し”勝ちだった。
「一応連盟から免状もらってるんです、五段だったかなぁ」
と苦笑なさるお姿、本当に実物かしらとまじまじ見つめてしまった。昭和27年生まれ50才。写真で見るよりさっぱりとした意外に色白なお顔だ。
「実はたまに指してるんですよインターネットの道場で」
とクスっと笑ったお顔には急に親しみ感じた。
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近代将棋チームは、団鬼六さん、石立鉄男さん、永井英明さん、円山和則さん、湯川恵子さん。
日本棋院チームが、高木祥一九段、上村邦夫九段、武宮正樹九段、工藤紀夫九段、そして小林光一碁聖。
立会人が中原誠十六世名人。
なかなか凄い面子が揃った豪華な企画だ。
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新春特別企画ということは12月に行われたのだろう。
そういえば、近代将棋の経営が傾く前の頃は、近代将棋執筆者が招かれる忘年会が催された時期があり、私も1998年に参加させていただいたことがある。
その場所も新宿の料理店の2階だったので、この近代将棋チームVS囲碁棋士チームも同じ店だったと思われる。
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私は12月生まれなので、昔は12月という月が大好きだった。
ところが、社会人になってからは私の中での12月の株価が大暴落してしまった。
日中の仕事中はともかく、夜の酒場がどこも混んでいて慌ただしいことが12月を好きではなくなった最も大きな要因。
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逆に好感度が高いのが1月と2月。
酒場が混んでなくて落ち着いて飲めるから。
恥ずかしくなるくらい非常に単純な理由だ。