「顔立ちはやさしくても指し手は憎い」

将棋世界2004年11月号、関浩六段の「公式棋戦の動き」より。

NHK杯

 9月放送の4局は好局、熱局ぞろいだったが、山崎-島の終盤戦に現れた珍形を紹介しよう。

 経過はともかく、10図は先手の勝勢だ。大駒3枚を封じられた後手は手が出せない。

 実戦は▲7六歩△8六角▲5八玉△9五歩▲6五歩△4四飛▲6六馬△9六歩▲8六銀△8七歩▲4八金上……。

 角を取らない▲5八玉、金を取れないことを見越した最終▲4八金上。

 顔立ちはやさしくても指し手は憎い。105手で山崎の勝ち。

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どれほど憎い指し手なのかを振り返りたい。

10図から▲7六歩△8六角▲5八玉(11図)

△8六角は▲同銀と取ってくれれば△8七歩で、9九の飛車を世に出そうという苦肉の策。しかし、▲5八玉と冷たい仕打ち。

11図から△9五歩▲6五歩△4四飛▲6六馬(12図)

後手は△9五歩から香を取りにいくぐらいしか手がない。先手は8六の角は取らないまま、▲6五歩~▲6六馬と馬を要所に配置。

12図から△9六歩▲8六銀△8七歩▲4八金上(13図)

△9六歩にようやく▲8六銀と角を取る。

▲6六馬には恐ろしい狙いがあった。

△8七歩とは打てても、△8八歩成と金を取ることができないのだ。(△8八歩成▲同馬で9九の飛車が死んでしまう)

ただし、このまま△8八歩成▲同馬の進行だと、△5七金が激痛になりかねないので、▲4八金上。

よくよく見てみると、友達をなくすような激辛な手ではなく、後手からの手段を殺す非常にロジカルな手順であることがわかる。

「顔立ちはやさしくても指し手は憎い」と書かれた山崎隆之五段(当時)だが、「顔立ちはやさしくて指し手がニクイ」が正解なのかもしれない。