将棋世界1980年5月号、NHKの沢みのるさんの「NHK杯戦 大山十五世名人堂々七回目の優勝」より。
決勝戦の録画は3月3日に放送センターの108スタジオで行った。
解説が中原名人、聞き手が永井英明さんという豪華メンバーである。
昨年までは、録画の日、つまり実際に優勝者が決定した時点で、「ニュースセンター9時」などで結果をお知らせしていたが、今年からは放送の日まで発表は伏せることにした。「テレビ将棋は、先に結果がわかってしまうと面白くない」という多数の意見に従ったもので、大方のファンの皆さんにも賛成して頂けるものと思う。(しかし、中にはわざわざ電話で結果を問い合わせて来られる方もいて、人さまざまの感はあるが―)ひと昔前まではNHK杯戦も現在のように注目されていなかったから、年に一回だけニュースにとり上げてもらえることが大変なPRだと喜んでいたものである。一般的なニュース価値と、純然たるテレビ将棋ファンの気持ちとの、どちらを取るのが正解か、なお議論の余地は残るとしても、ファンのパワーの増大によって時代が変わって来たという感は深い。
さて、結果は3月16日の放送でご覧の通り、大山康晴十五世名人が堂々7回目の優勝を飾り、通算の優勝記録を117と伸ばすことになった。
初優勝をねらって意気込んだ森雞二八段にとっては、どうも残念というほかない結果であった。こんな筈ではなかったのに―という森八段の嘆息が、見ている者にまで伝わってくる感じの終盤だった。
(以下略)
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「ニュースセンター9時」とは懐かしい番組名だ。
「ニュースセンター9時」は、1974年4月から1988年3月まで放送された非常に人気の高かったNHKのニュース番組。
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長所の裏返しが短所、短所の裏返しが長所であるように、一つの意思決定には”あちらを立てればこちらが立たず”というようなことが必ず付いて回る。
NHK杯戦決勝の結果の報道も、その典型例と言えるだろう。
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現在の放送スケジュールと同じならば、準決勝2局が放送される前のタイミングでの決勝の結果の報道。
たしかに、決勝戦だけではなく準決勝2局の勝敗結果も放送前にわかってしまうわけで、テンションが下がる視聴者が増えることは間違いない。
広報面のメリットよりも視聴者が感じるデメリットの方が大きく、放送の日まで発表を伏せる方式は大正解だと思う。