将棋世界2001年3月号、佐藤紳哉四段(当時)の「将棋カウンセリング」より。
ある日の夜のことである。ふっと眠りから覚めると、そこには、年は20歳ぐらい、髪は長く目は切れ長、客観的に見て、美人と思える女性が立っていた。
「こんばんは」
「こんばんはって、君…君は誰?」
「誰って、私はあなたが必要としているからここに来たのよ」
「別に僕は、君を呼んだつもりはないし、第一玄関の鍵はちゃんとかかっていたはずだ。も、もしかして幽霊?」
「古いわ、笑わせないで。今は21世紀よ、もうちょっと現代的な考え方はできないの?」
「そんなこと言ったって……そういえば足もあるし、幽霊ではなさそうだな」
「私はそこから出てきたの」
「そこって、パソコン……?」
「そうよ。最近のパソコンには、必要とされると、私が出てお手伝いするようなプログラムが入っているわ」
「そんな話、聞いたこともないし、信じられない」
「政府が極秘に開発しているの。なんでも景気対策のためなんだって。馬鹿げた話よね」
「だけど、どうして今、出てきたんだい」
「だから言ったじゃない。あなたが私を必要としているからよ」
「必要としている……。わかったそういうことか、それでは」
「ちょ、ちょっと、どうして服を脱ぐのよ、勘違いしないで」
「じゃあ一体何のために君は現れたんだい」
「今日は何の日だか知ってる?」
「何の日って、ただの月曜日じゃないか」
「あきれた。今日は将棋カウンセリングの締切りの日よ」
「だからって、そのために出てきたのか?」
「そうよ、私が手伝うわ」
「別に、一人でも書けるよ」
「最近、ちょっとマンネリ気味だと思うわ」
「………」
「あらいやだ、こんなこと話している場合じゃないわ。早く質問に答えなきゃ。あなた、答える質問の数が少ないことでも評判悪いわよ」
Q.イヤな変化が……
図はある棋書に載っていた局面で、「▲6六銀で先手は狙い通り位を取ってよし」とありますが、ここで△4五歩と突かれたらどう指せば良いのでしょう。
以下▲5五歩△4六歩▲5四歩△4七歩成▲5三歩成△4六飛で先手も気持ち悪いと思いますが。
(埼玉県 Sさん)
A.荒すぎた捌き
「この質問なんだけど、どうかしら?」
「どうかしらって、何で君が質問を選ぶんだよ」
「あら、読者の方で四間飛車が好きな人は多いと思うし、実際先手をもって、どうやったらいいか解らないのよ」
「君は将棋が解るのかい?」
「解るけどあまり強くはないわ。それよりどうかしら、△4六飛と浮かれた局面は」
「うーん、振り飛車がちょっと無理をしている感じがする。5三に手順にと金を作れたのが大きそうだね」
「そうなんだけど、4七のと金も大きそうだし、6六の銀取りだし……」
「たしかに、そこで▲6七銀のような受けでは大変そうだね」
「そうなの。後手には△5七とや、△3七との狙いもあるの」
「居飛車党の人で、このような振り飛車の荒い捌きに苦しめられている人は多そうだね」
「そう、私も優勢だと思っていても逆転負けはしょっちゅうだわ」
「君は、いったい誰と将棋指すんだい?」
「話を横道にそらさないで。先手はどうすればいいの?」
「ちょっと浮かんだんだけど、(△4六飛に)▲5五銀はどうだい」
「△7六飛には▲6七玉ね。でも△5六飛と寄られるとまた銀取りよ」
「そこで▲5四銀と立つ」
「なるほど!!△8八角成には▲同玉で玉が広くなって大優勢ね」
「これなら目標の銀が攻めに使えて、しかも相手の4七のと金がそれほど働かないからうまくいったね」
「さすがね。勉強になったわ」
「あっ、もう行数がないぞ。君のせいで一人の質問しか答えられなかったじゃないか」
「あっごめんなさい。来月はもっと答えられるようにリードするわ」
「来月はもういいよ……」
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佐藤紳哉四段(当時)による非常にユニークな読者将棋相談コーナーの回。
この手法はかなり面白い。
同じような構成で自戦記を書けば、相当面白い作品ができると思う。
観戦記に適用するのは難しそうだが。