将棋世界2001年3月号、神吉宏充六段(当時)の「今月の眼 関西」より。
今月の将棋は順位戦から2局取材した。まずは1月19日のB1の藤井猛竜王-福崎文吾八段。四間飛車に玉頭に位を張った福崎八段。早々に△2五歩から動いて1図。ここから藤井竜王は見たことのない反撃手順を用意していた。
1図以下の指し手
▲2七銀△2六歩▲1八銀(途中A図)
途中A図以下の指し手
△4四銀▲2八飛(途中B図)
途中B図以下の指し手
△8六歩▲同歩△3一角▲1七銀(途中C図)
途中C図以下の指し手
△8六角▲8八飛(途中D図)
途中D図以下の指し手
△6四角▲8三歩△5二飛▲2八飛(2図)
普通、2七銀の形に2筋交換があって、2六は振り飛車側が打つ歩と決まっている。それを相手から△2六歩と打たせるために▲2七銀は見たことがない。しかも▲1八銀とは……後手から何か手があったらいっぺんに潰されてしまう形だけにとても指す気にはなれないが、そこが竜王たる所以か、2筋8筋2筋と飛車をブン回して2図。確かに振り飛車十分である。
これをモニターで見ていた有森浩三六段「やっぱり将棋は面白く指さなアカン」
(以下略)
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「気持ちは非常によく分かるのだけれども、とても真似はしたくない」ような藤井猛竜王(当時)の反撃手順。
やはり私は昭和色の濃い振り飛車党なので、このような手順を見ていると、開頭手術をされている最中にヘディングシュートを決めにいくような気分になってしまう。
逆に言えば、わずかな隙も逃さないプロならではの将棋。
藤井システムを編み出した藤井猛九段だからこそ指せる、大胆かつ細心の手順だ。