大の苦手を克服した加藤一二三九段

将棋世界1981年2月号、読売新聞の山田史生さんの「第19期十段戦終わる 加藤、4-1で十段位奪取!」より。

 加藤一二三・九段が、常勝・中原誠十段から、堂々4勝1敗で、十段位を奪い取った。第7期(昭和43年度)以来、実に12年ぶり、二度目の十段位である。

 それにしても、今回の七番勝負で見せた加藤の、積極果敢な攻撃ぶりは見事であった。かつては慎重な上にも慎重、石橋を叩いてもなお渡らず、そのため千日手もけっこう多かった加藤だったが、今回はそんな弱気さはみじんも感じられなかった。

 対局前のインタビューで、加藤は私に言った。

「ひところ対戦成績が極端に悪かった(加藤の1勝20敗)のですが、そのころ私は中原さんの将棋を通り一辺の見方しかしていなかったんですね。浅い見方しかせず、突っ込んだ見方をしていなかった。でも気持ちを込めて見るようになると、中原さんの長所がよくわかるようになりました」

 私はあえてダメを押す。「短所も見えてきたということですね」

 加藤「ええ、まあ。以前に比べ戦い易くなってきたといえますね」

 加藤の満々たる自信を見ることができる。ほかに時間の使い方については「時間にも少し気を使うようになってきました。だから秒読みにはなっても、以前より、秒読みになる時間が遅くなってきていますね。でも、難しくて、面白い所では、たっぷり時間を使ってしまいます」

 ”面白い”という所に注目したい。加藤の長考は、苦吟ではなく、むしろ”楽しみ”であるらしい。これでは相手になる棋士はたまらない。

(以下略)

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長所がよくわかるようになるとともに短所も見えてきた、何と奥の深い言葉だろう。

たしかに、相手に真剣に向かい合えば、そのようになるものなのだろう。

勝負に勝つための鉄則と言っていいのかもしれない。

だからと言って、私がキュウリと真剣に向かい合って、キュウリの長所や短所を知っても、苦手なキュウリを克服できるとは思えない。

食べ物や恋愛の初期段階への適用は難しそうだ。