将棋世界1981年3月号、能智映さんの「恐るべき雀士たち」より。
大きな勝負の前夜祭、都内の「羽沢ガーデン」であったか。丸田祐三九段が所用のため少し遅れてやってきた。副会長だから、当然出席の義務(?)がある。
だが、床の間を背にせわしなく料理をかき込んでいた大山康晴十五世名人は、ふわっとした目を向け、さらりといったものだ。
「あんた、何しに来たの?」
新聞社の人たちにあいさつしなくてはならない立場の丸田、「うん?」と不満そうな表情を見せ、一瞬冷たい空気が流れたが、すぐに気をとり直して「あぁ、きょうはごあいさつだけだよ」と軽くかわしたものだ。
これを”二人のジャレ合い”とみるのはベテラン記者だけだ。他の人たちは、次の大山の言葉をきいて緊張をほぐす。
「あの人、役に立たないんですよ。呑むではないし、麻雀やるにも強すぎて。―それに、そこにいるハクちゃん(加藤博二八段)やセリちゃん(芹沢博文八段)なんかも役立たずだしね」
要するに大山は、麻雀の相手を捜しているのだが、集まってくるのがみなプロ級の連中なのでちょっぴりスネているのだ。
「だれか、その三人とやってみる?」と大山がすすめるが、だれが名乗りでるものか。
加藤治郎名誉九段によると「昔は両切りピースを吸う人は麻雀が強いと決まっていた」そうだ。―丸田、加藤博、花村元司九段しかり。「ただ五十嵐クン(豊一八段)だけは例外だったけどね」と加藤博八段。
(以下略)
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当時の日本将棋連盟会長が副会長に対して、「あんた、何しに来たの?」と言えば、事情を知らない人達は凍りついてしまうことだろう。
ところが、大山康晴十五世名人と丸田祐三九段は昔から仲が良く、一緒に旅行へ行ったりもしたほど。
まさしく、二人がじゃれ合っている光景。
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強すぎるので役に立たない。
昔の4コマ漫画の「サザエさん」で、
- (1コマ目)波平に「夏休みの宿題(絵)手伝って」と頼むワカメ。
- (2コマ目)絵を描いている最中の波平。それを見ているワカメと同級生の女の子。
- (3コマ目)女の子「ワカメちゃんはいいなあ、お父さんが手伝ってくれて」、ワカメ「お父さんにお願いしてみればいいじゃない」
- (4コマ目)「ウチはだめなの」と女の子の家でワカメに語る女の子。その子のお父さんは日本画家で、竜が空を舞う絵に取り掛かっている最中。
というものがあった。
お父さんに頼むと、絵が自分でやったものではないとすぐにバレてしまうからお父さんには頼めないというわけで、これも「強すぎるので役に立たない」あるいは「過ぎたるは及ばざるがごとし」の典型例と言えるだろう。
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「昔は両切りピースを吸う人は麻雀が強いと決まっていた」は、厳密には加藤治郎名誉九段による理論ではない。
将棋世界1981年3月号、加藤治郎名誉九段の「棋士の近況報告」より。
昭和30年から日記を書き始め、年末毎に麻雀のトータルをつけてきた。昨年までの成績は25勝1敗。つまり、26年間で1年だけマイナスだった。
麻雀の名手は①切れ長の眼と②眼鏡不要の雀士。①②を避ければ大体無難と保証する。なお、昨年ある人から③ショートピース(タバコ)の愛煙家も要注意と教えられた。将棋連盟でショートピース党は花村、丸田両九段、五十嵐八段と私。どうやら③は当たるも八卦、当たらぬも八卦である。
また最近、麻雀でも「口は災いの元」ということを痛切に感じたが、それをお知らせする紙数がないのが残念。
なんとなく麻雀コンサルタント的な近況報告となっちゃったな……。