将棋世界2001年1月号の、アサヒスーパードライの広告「キレ味。この一手。 第4回 屋敷伸之八段」より。
会心の馬切り
今からちょうど10年前、中原誠棋聖に挑戦し、初タイトルを取った思い出深い将棋である。第56期棋聖戦五番勝負は相掛かりシリーズとなり、2勝2敗で迎えた最終局も相掛かりの激しい戦いになった。中盤は苦しいと感じていたのだが数手前に読みにない手を指され、それでも悪いのかと思いながら図の局面に進んだ。5四にいた銀を歩の頭に出られ、飛車と馬の両取りを掛けられたところだ。
ここで▲6五同歩と銀を取るのは△3四飛と馬を取られて後手の注文にはまるのだが、とっさにいい手が見えた。図から▲4三馬!がキレのある一手だった。後手は△同玉と取るしかないが、そこで▲6五歩と銀を取り返すのが好手順。玉を露出させ、次に▲4六飛と回る手が後手の歩切れを突いたすこぶる厳しい狙いになっている。
図からの▲4三馬は、今でもニヤリとしてしまう会心の一手である。
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△6五銀も飛車と馬の両取りで気持ちの良い手だが、▲4三馬も気持ちの良い手。
しかし▲4三馬は、(▲4六飛と回った時に)後手が歩切れでなければ決して妙手にはならないのだから、本当に将棋は難しいものだと思う。
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以前も書いたことだが、2006年、あるパーティーの後、Y新聞のOさんと屋敷伸之九段と3人で飲む機会があった。
現在の屋敷九段は酒を止めているが、その頃は大いに飲んでいた時代。
飲んでいる時も、喋っている時も、歌を歌っている時も、女性と話をしている時も、じっとしている時も、屋敷九段はずっと笑顔だった。
寝ている時も笑顔なのではないだろうかと思えてしまうくらい、ずっと笑顔のままで、一緒にいて、とても楽しい気分になったものだった。
しかし、「今でもニヤリとしてしまう会心の一手である」と書かれているのを見ると、ずっとあの笑顔だったら、ニヤリとされても全くわからないだろうなと思ってしまうのである。