将棋世界2002年8月号、森内俊之新名人大特集「森内名人お祝いメッセージ」より。
竜王 羽生善治
森内さんの地力と実力は以前から定評があったので、いつか必ずタイトルを獲ると思っていました。今年の名人戦で4連勝ストレート勝ちは意外な結果でしたが、名人を獲ったことについてはそんなに驚いていません。森内さんはA級順位戦でいつも抜群の成績でしたから、名人にはなるべくしてなったと思っています。棋聖 郷田真隆
A級順位戦も8勝1敗の成績で、内容もよかったですから今回の名人戦は挑戦者有望だと思っていました。
丸山さんも調子が悪かったと思いますが、森内さんが持てる力を存分に発揮したと思います。
シリーズ通して内容もよかったですし、それに加え4連勝で名人位を獲得したことが素晴らしいと思います。敬意を表したい。自分も森内さんに負けないよう頑張っていきたいと思います。永世棋聖 米長邦雄
森内新名人が誕生した。おめでとう。今期の名人戦は丸山忠久名人が防衛しても、挑戦者の森内俊之八段が奪取しても、どちらも自然ではある。
両者の年代は羽生善治竜王を筆頭として、十名程強すぎるのが揃い過ぎている。
私は十年程前に「あと十年後にはタイトル保持者は三十歳くらいの者で占められているだろう」と予測を述べたことがある。
もちろん年齢が上の者にも頑張ってもらわなければ困るが、それよりも年下の若者の奮起を切に望みたい。
森内俊之の無冠。これは七不思議のひとつでもあった。ほとんどの同世代の者はタイトルを獲ったが、森下と森内の二人だけは縁がないままである。だから今回彼が名人位に就いても誰も意外には思わない。
森内新名人の祖父である京須先生は、趣味は相撲とピアノであった。彼の立派な体躯は京須先生譲りのものであろう。
「強情で素直」この相反する両面を持ち合わせているのはトッププロに共通することだが、それはバランスよく内面においても、他に対しても接する時が花の時だ。
ともすれば、強情は頑迷になりやすく、素直は付和雷同にやりやすい。
このバランスを崩さない限りは、これからも名人位を死守し続けてもおかしくない。
気負うことなく更なる精進を続けて欲しいものだ。(中略)
八段 三浦弘行
私だけでなく戦前は接戦になると思われていた方が多かったと思います。特に名人戦は4年連続フルセットだったので、持ち時間が多い2日制では、やはり先手が勝つシリーズになりやすいのではと考えていました。
森内新名人にとっては、第2局で丸山前名人得意の角換わりを破ったのが大きかったと思います。もちろん、第3局のトン死がなければどういう流れになったかは分かりませんが、全体として森内新名人が後手番をも苦にされず、余裕をもって戦えた印象が強かったです。(中略)
観戦記者 田辺忠幸
森内俊之新名人の誕生は、将棋界を球面体に例えれば、一部欠損していた表面が補われて、満ち足りた姿に近づいたような感じがしている。
森内将棋を”鉄板流”と称する向きもあるが、ご本人は不満らしい。鉄板は意外にもろく、さびやすい。鍛えの入った粘り強い”鋼鉄流”がふさわしい。
50年以上も前に名人の祖父、京須行男先生の非公式将棋を見物し、記録した覚えがある。その棋譜を新名人に提供しようと家捜しをしているところだ。
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森内俊之九段が初めて名人位を獲得したのが今から15年前。
15年前を相当前と感じるかそれほど前でもないと感じるかは人によって異なるが、15年間で森内九段が7期(通算8期)名人であったことは密度で考えても凄いことだ。
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田辺忠幸さんの「将棋界を球面体に例えれば、一部欠損していた表面が補われて、満ち足りた姿に近づいたような感じがしている」が絶妙な表現。
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それまで「無冠の帝王」と呼ばれていた森内九段。
「森内俊之の無冠。これは七不思議のひとつでもあった」
将棋界七不思議というものがあるのだろうか。
あるとしたら、他の七不思議とは違って、時代時代で変わっていくものなのだろう。
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Wikipediaによると、現代の七不思議は、
中国の万里の長城
インドの廟堂タージ・マハル
イタリア・ローマの古代競技場コロッセオ
ヨルダンの古代都市遺跡群ペトラ
ブラジル・リオ・デ・ジャネイロのコルコバードのキリスト像
ペルーのインカ帝国遺跡マチュ・ピチュ
メキシコのマヤ遺跡チチェン・イッツァ
であるという。
七不思議というと、私などはどうしても怪談的な七不思議を期待してしまうのだが、なかなか世の中はそうは行ってくれない。