藤井猛九段「三浦君、大盤解説まかせたよ」

将棋世界2004年12月号、滝澤修司さんの第52期王座戦五番勝負第4局〔羽生善治王座-森内俊之竜王名人〕観戦記「時代を乗り越えろ」より。

 羽生と森内の対決。竜王戦、王将戦、名人戦とすべて森内に凱歌があがったが、すべて2日制の対局。森内は対羽生戦の成果を、時間を羽生よりも残すことを心がけたと話していた。

 しかし王座戦は1日制の対局。羽生は1日制の対局ではめっぽう強く、この王座戦もそうであるように棋王戦でも10連覇以上(12連覇)を記録している。

 王座も羽生から奪取すればタイトル数も過半数を超え、完全に森内時代と言えよう。それには本局に勝ち、是が非でも最終局に持ち込まなくてはならない。

(中略)

 さすが将棋の街、天童である。カメラマンがずらりと並び、シャッター音が静かな対局室に一斉に響きわたる。

 また、天童市立津山小学校の6年生29人も緊張の面持ちで指し手を見つめていた。

 この後、子供達は藤井九段との懇親会で将棋と出会った頃の話や将棋界のしくみを興味深そうに聞き入っていた。

 スラスラと駒が組み上がり、森内の横歩取り△8五飛戦法に。控え室の藤井九段が「三浦君、大盤解説まかせたよ」と弟弟子の三浦八段に話し掛けたのに対し、三浦八段は何か言いたげな表情で藤井九段を見てはいたが「……」黙々と研究を続けるばかりだった。

(中略)

 △8八歩の手裏剣に羽生も52分の考慮でグイと▲3四歩の突き出し。互いににわかに忙しくなった。

 大盤解説場では藤井九段の「横歩取りは解らないので三浦君に聞いたのですが、僕にも教えてくれないんですよ。僕は指さないのに……」にお客さんは大喜び。その後、三浦八段が登場し兄弟弟子での解説で会場は大いに沸いた。

(中略)

「△8九歩成と▲同銀と取られると思わなかった」と局後の森内。何か違う手が飛んでくると感じていたような話しぶりであった。

 すんなりと飛車を成り込めた森内。ここで羽生は▲2九飛とノータイムの飛車引きだ。

4図以下の指し手
△2六桂▲4八金△3八金▲6五桂

 4図までの局面は実戦例がある。平成13年棋聖戦第4局、郷田-羽生戦だ。この時、羽生は後手番。

 本局は敗れた郷田側を羽生が持って指しているのだ。しかし飛車を成らせたものの形勢は悪くない。「さすが郷田だ」の声があちらこちらで聞こえた。

(以下略)

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三浦弘行八段(当時)が一言もしゃべっていないのに、三浦九段らしいキャラクターが最大限に発揮されている。

藤井猛九段との兄弟弟子コンビとなると、二人の面白さが増幅されるようだ。

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大盤解説場に来ている人たちに、ここにはいないのに「さすが郷田だ」と言われる郷田真隆九段も凄い。