升田幸三九段「喜ぶときには素直に喜ばなきゃあいかん。泣かなきゃあならんときが来るんだから、この勝負の世界は、絶対にね」

将棋マガジン1985年5月号、米長邦雄三冠(当時)の「本音を言っちゃうぞ! 第9回 升田幸三九段を語る」より、升田幸三九段のコメント。

升田幸三九段のコメント

 昭和33年の秋ですが、私は血を吐いて倒れたんです。五合ほど。そういうことがあってダメになったんだ。それからは自分では飛車落ちくらい弱くなったと思う、読みがね。だから、今のAクラスは飛車落ち程度(笑)。

 私は子供の頃、名人にヤリ引いて勝つと言って、それを実現したんだから。名人を指し込んで、ヤリ引いて、鼻唄ともいかんが、そういう人、他におるの?

 米長君にも、名人に角を引いて勝つとかなんとか、なんかあるだろう。それを達したらええ。

 あのとき、タイトルが十ありゃあ、十とも獲ったんだ。しかし、三つしかない(笑)。それはそれでええ。

 で、升田のポカというのはねえ、やっぱり十二指腸潰瘍で何年間も長いこと患ったり、移動性の盲腸で死にかけてね。どうしてもでるんですよ、体力の無さからポッ、ポッと。米長君に言うことは健康に注意してもらいたいということ。それは、持っている力がでないから。力のあるときに力を出さなきゃあいかん。そのときに力を出さないと、力がないのと同じでね。七つだろうがなんだろうが大いに獲ったらええ。

 それから、喜ぶときには素直に喜ばなきゃあいかん。泣かなきゃあならんときが来るんだから、この勝負の世界は、絶対にね。間もなく泣かにゃあならなくなるんだから。それでなくちゃおもしろくないんだ、世の中は。勝ったらええ。

 それと、各自がふんばらないといい将棋ができないよ。どちらが勝つか分からないような手合いがやるからおもしろいんでね、見ごたえがある。それによって両方が磨かれるんですね。それぞれが命がけにやってね、技術を発揮するというのがファンづくりだろうね。

 とにかく、身体が元手だから、健康には注意してほしい。

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升田幸三実力制第四代名人の有名な「笑えるうちに笑っておけ」という言葉の起源がこの談話だったのか、あるいはもっと以前のものが元になっているのか、どちらかはわからないが、とにかく升田幸三九段自身の言葉で語られた貴重な記録。

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昭和33年の秋以来、飛車一枚弱くなったということも、引退後の升田九段だから吐露できたこと。

全盛期の自分なら今のA級には飛車落ちだ、もいかにも升田九段らしい。

総合的な強さでは大山康晴十五世名人だが、最大瞬間風速的な強さでは升田実力制第四代名人だったかもしれない。