将棋マガジン1985年1月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。
小堀は73歳。さすがに将棋はだいぶ弱くなったが、それでも全局、時間いっぱいまで頑張る。この人にとって、将棋を指すこと、それだけが生きがいなのだ。
この日も勝ったことよりも一局を指し終えた喜びに表情が輝いていた。歯がなくなったせいか、言葉つき、仕種は童子のようである。
数年前、制度委員会で、定年制度を論議したことがあった。その時、小堀は「お金なんかどうでもいいから、将棋だけは指さして下さい」と涙ながらに訴えた。
私は委員の一人として、師匠のお言葉ですが、世間にはどこも定年というものがあり、みんな仕事を続けたいと思いながらやむをえず辞めるのです。先生の要求はエゴというものではないでしょうか、と思った。
しかし、この日の光景などを目のあたりにすると、そんな薄っぺらな常識論を口にするのがはずかしくなってくる。社会的地位や収入、そんなものは眼中になく、ただ将棋だけを一生懸命に指す、それは棋士の一つの生き方の見本とも思えるのである。
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昨日、アマ竜王戦宮城県大会があった。
私は見に行くだけで、午後から始まる一般大会に出ようと思っていた。
しかし、アマ竜王戦の開始直前の参加者が奇数人数ということで、急遽、人数合わせで私も出ることになってしまった。
参加者数は50名を超え、県予選としては久しぶりの50人超えであるという。
予選は2勝本戦出場、2敗失格。
私は運が良かったのか、予選を2勝1敗で本戦トーナメント(32名)へ出場することができた。
本戦トーナメントは2回戦で敗れたが、私にしては上出来の戦績。
ところで、今日の話題は、その時の1回戦の隣で行われていた対局のこと。
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隣の対局は、森田甫さん(今年86歳)と県内の中学生トップクラスの実力を持つ一人の蜂谷尚輝君(中学3年生)。
森田さんは、アマ名人戦で8回、アマ竜王戦で1回、宮城県代表の実績を持ち、蜂谷君は県内の大会の有段者の部で上位入賞を何度も果たしたり昨年の全国中学校選抜将棋選手権大会の県代表にもなっている。
この一戦を、森田さんが勝った。
そもそも86歳で予選を2連勝=本戦出場だけでも凄いのに、中学生強豪に勝つのだから、とにかく凄い。
森田さんはもともと楽しそうな雰囲気で将棋を指しているのだが、最終盤の勝ちを決める手(相手玉を必至にする手)を指す時の控えめな嬉しそうな顔は、ほのぼのとさせられて見ていて嬉しくなるほど。
将棋は年令に関係なく誰でも指すことができるのが素晴らしいところ、とあらためて気付かされた。
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森田甫さん→試練の感想戦