将棋マガジン1985年5月号、「公式棋戦の動き 棋聖戦」より。
「ロサンゼルスに行きたいよう」というのは森雞二八段。今期棋聖戦の第2局がアメリカのロサンゼルスで行われることに決まったからだ。まだ全員が出揃ってはいないが、そのロス行きの切符を目指し、本戦トーナメントがスタートした。森は関根と対戦。
(中略)
以下、関根は粘ったが75手で森が寄せ切った。
1回戦をクリアした森。手合い係との会話がおもしろかった。
森 ねえ、ロサンゼルスへ行きたいんだけど。
手合い 挑戦者になれば行けますよ。
森 途中で負けたらどうしようかな。ねえ、記録係でもいいから連れてってくれない?
手合い ダメです。元棋聖が記録係なんて、絶対ダメです。
森 やっぱりそうか。そうだろうな。勝つしかないのか。
しかし、元棋聖が記録係では考えただけでも対局者は指しにくそうだ。
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ここに出てくる「手合い係」とは、将棋連盟の手合課の職員のこと。
「ねえ、ロサンゼルスへ行きたいんだけど」と、1回戦で敗れた後に言うのなら分かりやすいが、勝った後に言うのが森雞二八段(当時)らしいところ。
はじめから、挑戦者になれなかったとしても記録係で行くことができる伏線を作っておきたかったのかもしれない。
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結果的には森雞二八段は挑戦者になることはできなかったものの、棋聖戦第2局観戦ツアー「ロスアンゼルス将棋の旅」の副団長になってロサンゼルス行きを実現させた。(団長は大山康晴十五世名人)
記録係は、なんと棋聖戦の前挑戦者の中村修六段(当時)だった。