グランドチャンピオン戦の前の徹夜麻雀

近代将棋1983年5月号、小池重明読売日本一(当時)の連載随筆「将棋と酒」より。

 3月19日(土)何故か新宿の歌舞伎町で麻雀を打っている。御一人様でも出来ますというのが看板のブー麻雀である。打ち始めてからほぼ24時間経つ、明日はグランドチャンピオン戦があるというのにこんな事していい訳がない。午前1時半隅にあるソファーで横になる。

 3月20日(日)7時起床、大会は9時からだからまだ少し時間がある。昨日の負けを取り返すべくまた仲間に入る、バカヅキである。1日の負けを1時間半で取り返す、これはツイているひょっとしたら今日明日の大会も……などと相変わらずの極楽トンボである。9時ぎりぎりに会場である将棋会館に着く。

 今回のメンバーはアマ名人・宮沢巧、朝日名人・加部康晴、アマ王座・横山公望、赤旗名人・中藤誠、アマ王将・谷川俊昭、全日本オープン・野山知敬、レーティング・松田隆、読売日本一・小池重明の8人である。下馬評では谷川、加部、ついでに小池という名前があがっていたが……。

 9時10分対局開始、第1戦の相手は松田氏。序盤から中盤指し易い将棋だったが図にのっていったのが悪く、7七桂で負けかな?と思っていたら松田氏これを見逃し何とか勝たしてもらう。2局目横山氏中盤から終盤の入り口まで私の方が良かった筈だが……、局面はA図、

 ここで△6四飛では▲4二桂成以下詰まされる。△4一金打と受けても▲4二桂成△同金▲5二金でやはり負け、重苦しい時間が過ぎていく、20分の長考で△5五歩、▲同馬は△3三桂がピッタリ。しかし詰まされそうであるが、横山氏の持時間にも助けられ何とか2戦目通過。3局目谷川氏馬作らせ戦法で向かったが、角を打たされ桂損となり、必敗形いい処なく敗れさる。1日目が終わった。谷川氏一人が3連勝、あと2戦残しているが、1勝1敗なら優勝という感じになってきた(同率決戦なし)。例によって皆で飲みに行く、代々木から新宿、日暮里と、そして連盟で泊まる事になっていた数人も何故か私と一緒に寝る、午前2時就寝。

3月21日(月)7時半起床、皆で近所の喫茶店へ行く。450円でコーヒー、ホットドッグ、ゆで卵、スープは何時も感じることだが安い。連盟着9時、今日は10時対局開始である。皆想い想いに横になったり、本を読んでいたり独特の雰囲気を醸し出している。定刻開始、私は中藤氏と難解な中盤を乗り切ったが、寄せでぐずりおかしくなっている。

 中藤氏指そうと想っていた手を変更、これが良くなかったようで何とか3勝目。感想戦でわかったことだが、氏の方が私より良く読んでいたようだ。隣の谷川、加部戦が本日のハイライト、矢倉から凄絶な寄せ合いとなり、終盤加部氏間違い谷川氏の勝ちとなる。これで谷川氏の優勝が決まる。最終局加部氏との対戦、中盤良かったのが終盤大差、参った参ったである。今回の対局で気づいた事は中盤迄良くなると後がゆるむということであった。序盤巧者の私には終盤の力がもう少し必要だと痛感した?谷川君おめでとう、2位は加部君、3位は私がかろうじて入った。まあ勝ち越せたことを幸せと想わなければいけないか。

 今日は新宿のジンギス汗で打ち上げと決まっている。せいぜい飲んで食べて気を晴らさねばノイローゼになりそうである。明日は研究会なのでまた同じ顔ぶれが揃いそうである。何時まで続くぬかるみぞ……

(以下略)

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グランドチャンピオン戦は、日本アマチュア将棋連盟主催のアマチュアタイトル保持者によるトーナメント戦。

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24時間麻雀をやって、雀荘で寝て、起きてからまた麻雀を打つ。

対局前にはなかなかできないことだ。

対局が始まるまでのわずかな時間でも麻雀を打つところが特にすごい。

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450円でコーヒー、ホットドッグ、ゆで卵、スープ。

家で食べてもそうは思わないのだけれども、喫茶店でホットドッグを食べると、なぜか少し幸せな気分になることができる。

バターたっぷりの厚切りのトーストも同じような位置づけだ。

昭和の喫茶店の定番のナポリタンは、家と喫茶店では感動にあまり差はない。

ゆで卵は、微妙でなんとも言えない。