将棋マガジン1987年4月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。
桐山-南戦は、最後の場面となっている。すなわち23図で桐山は寄せありと見て、過激に攻めたのである。
23図からの指し手
▲4四銀△5三金▲同銀成△4二歩▲4三成銀△同歩▲5二金△3二金(24図)23図では、▲5九竜と引いておけば先手十分の形勢だった。▲4四歩や▲2三銀の狙いがある。それを桐山は▲4四銀と攻めた。読み筋は以下▲5二金で勝ちだったが、そのとき「△3二金と受けられる手をうっかりした」という。
まさか、△3二金そのものを読まないはずがないから、24図の次、▲2三銀と打つと、△同金と取られ、自玉が危なくなるのをうっかりした、ということだろう。
では、24図で▲2三銀は、△同金▲同歩成の次、△7七銀で詰むのか?
3階の研究陣は、棋士室と事務室の二手に分かれていたが、事務室の中心は内藤で「一目詰みあり」という。数分すると、棋士室の方から人が来て「村山君が詰まない、と言っています」と教えた。これが結論である。村山新四段は神様みたいなもので、彼が詰まぬといえば、その通りなのである。つまり、24図は桐山勝ちだった。
桐山は残り1時間。あぐらになって、じっと考えている。そして指したのは、▲4一銀だった。
24図からの指し手
▲4一銀△1四角▲3二銀成△同玉▲3五銀△2八飛▲3三歩成△同桂▲3四歩△7七歩成まで、南八段の勝ち。▲4一銀と打ってからでは桐山に勝ちがない。最後は△7七歩成で、アッ!という投了だった。
24図で▲2三銀と打つ順については、「駒を1枚勘定違いしていた」と言っていたそうだが、銀1枚を余分に渡して、自玉が詰むか、それだけの問題である。名人位を狙う将棋なら、この程度の詰みは読み切ってもらいたかった。
(以下略)
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桐山清澄棋聖(当時)は、この一局(A級順位戦最終戦)に勝っていれば、名人戦の挑戦者となっていた。
しかし、敗れたため、米長邦雄九段、谷川浩司棋王との3人によるプレーオフとなり、米長九段が挑戦者になっている。
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有名な「村山君が詰まない、と言っています」は、この文章が発端なのだと思う。
新四段でそのように言われるのだから、その信用力がいかに凄かったかがわかる。
「これが結論である。村山新四段は神様みたいなもので、彼が詰まぬといえば、その通りなのである」が格好いい。