羽生善治五冠(当時)「3ヵ月もあれば藤井システムの対策はできる。けれど藤井さんもまた3ヵ月の間に新しい作戦を用意してくる」

将棋世界2001年3月号、加藤昌彦さんの「あほんだら、アウトロー 〔いつか会えたなら 羽生善治五冠〕」より。

 そんな羽生に立ちはだかるのは、平成12年12月、第13期竜王戦の藤井猛だった。トラの子の竜王位を藤井が最強振り飛車で死守するか、あるいはそれを羽生が打ち砕くのか。シリーズの焦点は”藤井システム”への羽生の対策であった。きっといい手が出るに違いないと将棋ファンも期待したけれど、結果はハッキリとした戦略を発見できないまま、ついに羽生は決定的な対策を編み出せなかった。スコアこそ3勝4敗と拮抗するが、内容的には藤井の良いところばかりが目立っている。

(中略)

 具体的に示すとまず藤井は先手番と後手番で、全く戦い方が異なってくる。先手番の時は常に攻撃的で、いつも主導権を握るための構想を立てる。それでいて相手にプレッシャーを掛け、理想の戦いに近づける。後手番の時には更に勝負に厳格で、一転して手を殺しにかかる。無理な決戦はなるべく避けて、千日手さえも視野に入れた、忍耐のいる戦い方へ持ち込むのだ。序盤の研究に加え、終盤の寄せ合いとなった時の力強さは、羽生も目を見張ったに違いない。

「次回は藤井システムへの対策が用意できますか」

 私は羽生へ単刀直入に聞いた。すると羽生は

「3ヵ月もあれば対策はできる。けれど藤井さんもまた3ヵ月の間に新しい作戦を用意してくるから、絶対に勝てるとも言えない」

(以下略)

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羽生善治五冠(当時)が藤井猛竜王(当時)に挑戦し3勝4敗で敗れた直後の頃の会話。

藤井システムは一つの固定した形ではなく、居飛車側の出方によって繰り出される戦型が変わってくるので、対策を立てるのは本当に大変だと思う。例えばその中の一つには、古くから研究されいまだに結論の出ていないオーソドックス四間飛車対居飛車急戦も含まれる。

なおかつ藤井システムは進化し続けていたわけで、書いているだけでも気が遠くなりそうだ。

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現代のようなコンピュータソフトを用いて対藤井システムを研究したならどうなるのだろう。

簡単には答は出ないと思うが、簡単に答が出るような時代になったとしたら、人間対人間のドラマの5年分くらいが一気に吹き飛ぶことになり、将棋的には非常に味気ないことになってしまうと思う。