将棋世界1987年11月号、駒野茂さんの「関東奨励会レポート」より。
職場や学校で、仕事や授業が始まる前など、ワイワイガヤガヤのおしゃべりなどは、日常茶飯事だ。
奨励会もしかり。
幹事の来る10分前位が、一番話しが盛り上がっている。
「この前の競馬、10Rを取り損ねちゃったよ。前もって予想していたのに、違う馬に目が行っちゃったよ」
「かあ~、中日つうのはほんと、だらしねえ~な。またゲーム差が離れちまった」
他にも他愛のない事や、将棋の話などが入り交じっていて、まともに全部の話を聞こうものなら、頭がパニックになる位。
そんな中、誰かが、
「あれ~、先ちゃんがバイトしてらあ」
「えっ、何それ」
と言って、近くにいた数人の者が、声の主の周りに集まる。
「ほらっ」
そう言って広げたのは、10月号『将棋世界』に載っていた”森田将棋”の広告であった。
そこにでている少年に指を差し、
「いや本当かよ。先ちゃんこんな事もするのか」
「でも、これ本当に先ちゃんか?違うような気もするけど」
「このムクれた顔は、間違いなく先ちゃんだよ」
先程から先ちゃんという人物が出て来るが、話の早い読者なら、もうお分かりであろう。先ちゃんとは、先崎三段のことだ。
本人がいればこの場で確かめるのであるが、彼は三段リーグの対局で別室にいる。で、後で本人に、
「森田将棋の広告に出てるの、あれ先ちゃん?」
と聞いたら、
「あり得ないでしょ!」
と一喝されるように言われてしまった。
下の写真と見比べていただくと分かるが、帽子をかぶらせればどう見てもそっくりだ。だからみんなに間違えられても無理はない。
いくら当人が違うと言っても、当分の間はみんなに間違えられるだろう。そう思った時、一喝された時の先崎三段の表情が思い浮かんだ。
あの時の顔付きは、本当に”少年”とそっくりだったのだ。
* * * * *
どう見ても、先崎学三段(当時)に似ているとは思えないのだが、もしかすると、将棋が非常に強い人の目からすると似て見えるのかもしれない。
* * * * *
とはいえ、広告の少年は小学生か中学生に見える。
この時、先崎三段は17歳。
それでも似て見えてしまうものなのだろうか。
どちらにしても、奥が深そうな世界だ。