将棋世界1988年8月号、「順位戦C級1組レポート」より。
「羽生君は、このクラスを免除して、上に行ってもらうべきでしょう」
C1開幕の日。朝の対局室でこんな声があがった。隣室とはいえ、ふすまをとりはらっていたこともあり、羽生の耳にもこの声はハッキリ届いたはずだ。が、羽生は無表情無反応のまま。ちょっぴり緊張の色が見てとれた。ファンからだけでなく、仲間内からも上がって当然と思われることは、本人にかかるプレッシャーは並のものではないことと推察される。そんな重圧をはねのけていくのも、天下をとるためには必要なことなのだろう。
(以下略)
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順位戦の同じクラスにいる棋士から見れば、昇級確実な棋士が一人いるだけで、
- 直接対決があった場合、自分の黒星が1つ増える可能性が高くなる。
- 直接対決がなかったとしても、この年の昇級枠が1つ減ることと同じ意味になる。
ということから、隣室からの「羽生君は、このクラスを免除して、上に行ってもらうべきでしょう」は、冗談が半分近くとしても、本音が半分以上であることは間違いない。
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と言いながら、この期の羽生五段は頭ハネで昇級できなかったのだから、順位戦は恐ろしい世界だ。