近代将棋1990年7月号、池崎和記さんの第13回若獅子戦2回戦〔畠山成幸四段-村山聖五段〕観戦記「ライバル決戦」より。
●村山五段がケガをしたらしい。
▲ケガ?
●アパートの階段で足をすべらせたらしいんだ、夜中に。
■危ないなァ。で、ケガの具合は。
●だいぶ良くなったみたいだ。「まだ痛い」って本人は言ってるけど、こないだ奨励会旅行(ハイキング)に参加したぐらいだから、もう大丈夫だろう。
■なんで階段から落ちたんだろうね。泥酔してたのかな。
▲まさか。彼は酒は飲まないでしょ。
■いや。これがけっこう飲むんだ。しかも強い。梅田の飲み屋にボトルキープしてるというウワサもある。
▲ほんまかいな。
●その話、僕も聞いた。
▲師匠(森五段)は知ってるの。
■どうかな。あの師匠、弟子のことを知ってそうで知らないところがあるからね。
●彼は実はカラオケも好きでね。以前畠山弟(鎮四段)、東京の中川四段と一緒にスナックへ行って、3人で100曲ぐらい歌ったという実績がある。一晩でだよ。
▲100曲!ウソだろ。
●いや、ホント。だって僕は鎮四段から直接聞いたもの。正確な数字は忘れたけれど、中川60曲、村山30曲、鎮15曲。だいたいそれぐらいだったかな。
▲店は迷惑しただろうな。
(中略)
▲村山君と畠山君はたしか、奨励会の同期だよね。
●そう。昭和58年の11月に関西奨励会に入った。ただし村山は5級、畠山は6級だった。
■弟の鎮君は何級だった?
●いや、彼は一緒に入ってない。弟の入会は1年後だ。
■兄弟は同期じゃなかったのか。
●そうなんだ。試験は一緒に受けたけど、弟は落っこちた。翌年、研修会から奨励会入りしている。
▲奨励会時代、「畠山兄弟は宿命のライバル」と言われたけどね。
●兄は多少、そういう意識をもってるフシがあるけど、弟は何とも思ってない。「兄貴は兄貴で、僕は僕」っていつも言ってる。
▲でも「関西奨励会で一番仲が悪いのは畠山兄弟」って話をよく聞いたよ。「あの兄弟は、絶対に一緒に連盟には行かない。変えるときも別々だ」って。
●「仲が悪い」というのはガセネタ。大いなる誤解だよ。双子だから、一緒にいるとわまりがジロジロ見る。その視線がイヤで、わざと別行動を取っている。それだけのことさ。兄弟は小学生のときから、ずっとそうやってきた。
■現在はどうなの?
●いまもそう。面白いのは、家にいるときもそうだってこと。顔を突き合わせることはほとんどないそうだ。兄は早寝早起きで規則正しい生活をしてるけど、弟は宵っ張りの朝寝坊だからね。従って一緒に食事することはないし、将棋を指すこともない。
■まるで他人同士が住んでるみたいじゃないか(笑)。
▲ライバルと言えば、村山君と成幸君がそうだろう。奨励会の同期なんだからね。
■といっても、村山君のほうが早く四段になったし、クラスも一つ上だからな。村山君はともかく、畠山君には「先を越された」という思いが当然あるだろうと思うけど。「早く追い抜かなければ」というあせりもね」
▲そろそろ盤面をみようか。
(以下略)
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池崎和記さんの黒服座談会風の観戦記。
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「どうかな。あの師匠、弟子のことを知ってそうで知らないところがあるからね」
子供は自分の親に、自分の悪事(というほどのことではないが)を隠す傾向がある。
村山聖五段(当時)は、親以上の存在の森信雄五段(当時)に、酒を飲んだりカラオケへ行ったりすることを、あまり話していなかったのではないかと思う。
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「以前畠山弟(鎮四段)、東京の中川四段と一緒にスナックへ行って、3人で100曲ぐらい歌ったという実績がある。一晩でだよ」
1曲3分として、絶え間なく歌って100曲で5時間。
「中川60曲、村山30曲、鎮15曲」
21分の間に、中川大輔四段(当時)が4曲、村山聖五段(当時)が2曲、畠山鎮四段(当時)が1曲というペース。
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村山聖五段は、福崎文吾八段(当時)、阿部隆五段(当時)、池崎さんと4人でカラオケに行ったこともある。
福崎-阿部戦が終わった後のことなので、村山聖五段は、相当に人付き合いが良かったのだと思われる。
→谷川浩司名人(当時)「歌わないと感想戦のとき一言もしゃべりませんからね」