将棋マガジン1992年6月号、羽生善治棋王(当時)の第17期棋王戦五番勝負第4局〔対 南芳一九段〕自戦記「早囲いの攻防」より。
今期の棋王戦は昨年に引き続き南先生との対戦になりました。
南先生の棋風は重厚で攻め気が強いという矛盾しているようで矛盾していない所にあります。
このシリーズはリターンマッチという形で、私自身としては始まる前は前期以上に容易ではないという気持ちでした。
何故ならタイトル戦で敗れるとその次の年はそのショックで勝ち上がって来ることが少ないからです。
そういうケースが多い中で南先生は挑戦権を獲得したのですから、その精神力は素晴らしいものがあります。
その強さの秘密は私には解りません。簡単に崩れない所が一流棋士の証明なのでしょう。
そして、京都での第一戦を迎えることになりました。私にとってはちょうど1年振りのタイトル戦ということで、緊張もしましたし、新鮮な気分にもなりました。
(中略)
言い古された言葉ですが、タイトルは防衛して一人前とよく言います。とりあえずその一つの目標が達成出来て嬉しい。
しかし、対戦相手の南先生はタイトル戦の連投でかなりきついスケジュール、対して私は余裕があるスケジュール、条件的に恵まれたので勝つことが出来たのでしょう。
内容的にも押されていて苦しいシリーズでした。
(以下略)
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「何故ならタイトル戦で敗れるとその次の年はそのショックで勝ち上がって来ることが少ないからです」
羽生善治棋王(当時)は、1990年に竜王位を失冠後、その翌期の竜王戦1組では負けが先行し、2組に陥落している。
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竜王戦に限って見れば、直近では広瀬章人八段が竜王位失冠後に竜王戦1組では負けが先行し、2組に陥落している。
森内俊之九段は、2014年に竜王位失冠後、2015年の竜王戦1組で負けが先行し、2組に陥落している。
渡辺明三冠は、2013年に竜王位失冠後、2014年の竜王戦1組で負けが先行し、2組に陥落している。
竜王戦の場合は、竜王位を失冠すると、1組→2組というケースが多いようだ。
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一方、竜王戦七番勝負で敗れて、翌期にも挑戦している例もある。(年は年度)
羽生善治九段
1993年失冠●→1994年奪還◯
2000年挑戦●→2001年奪還◯
佐藤康光九段
1994年失冠●→1995年挑戦●
2006年挑戦●→2007年挑戦●
丸山忠久九段
2011年挑戦●→2012年挑戦●
竜王戦は32期中、番勝負で敗れて翌期にも挑戦しているケースが5期で、16%。
16%が多い数字なのか少ない数字なのか判断はつかないが、他の棋戦も見てみたい。
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名人戦で敗れて、翌期にも挑戦している例は、
升田幸三実力制第四代名人
1953年挑戦●→1954年挑戦●
大山康晴十五世名人
1957年失冠●→1958年挑戦●→1959年奪還◯
米長邦雄永世棋聖
1979年挑戦●→1980年挑戦●
谷川浩司九段
1998年失冠●→1999年挑戦●
羽生善治九段
2004年失冠●→2005年挑戦●
2011年失冠●→2012年挑戦●→2013年挑戦●→2014年奪還◯
名人戦は78期中9期で12%。
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王位戦は、
郷田真隆九段
1993年失冠●→1994年挑戦●→1995年挑戦●
佐藤康光九段
1997年挑戦●→1998年挑戦●
2005年挑戦●→2006年挑戦●
谷川浩司九段
1999年挑戦●→2000年挑戦●
羽生善治九段
2002年失冠●→2003年挑戦●→2004年奪還◯
2007年失冠●→2008年挑戦●
王位戦は60期中8期で13%。
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王座戦は(タイトル戦となった1983年以降)、
中原誠十六世名人
1987年失冠●→1988年奪還◯
谷川浩司九段
1993年挑戦●→1994年挑戦●
島朗九段
1996年挑戦●→1997年挑戦●
佐藤康光九段
2005年挑戦●→2006年挑戦●
羽生善治九段
2011年失冠●→2012年奪還◯
王座戦36期中5期で14%。
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棋王戦は、
米長邦雄永世棋聖
1979年失冠●→1980年奪還◯
谷川浩司九段
1986年失冠●→1987年奪還◯
南芳一九段
1990年失冠●→1991年挑戦●
佐藤康光九段
2008年挑戦●→2009年挑戦●
棋王戦45期中4期で9%。
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王将戦は、
大山康晴十五世名人
1955年失冠●→1956年挑戦●→1957年奪還◯
1962年失冠●→1963年奪還◯
二上達也九段
1959年挑戦●→1960年挑戦●
加藤一二三九段
1966年挑戦●→1967年挑戦●
米長邦雄永世棋聖
1973年挑戦●→1974年挑戦●
中原誠十六世名人
1985年失冠●→1986年挑戦●
南芳一九段
1989年失冠●→1990年奪還◯
谷川浩司九段
1995年失冠●→1996年挑戦●
羽生善治九段
2001年失冠●→2002年奪還◯
2003年失冠●→2004年奪還◯
佐藤康光九段
2005年挑戦●→2006年挑戦●
王将戦69期中12期で17%。
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棋聖戦は、
大山康晴十五世名人
1966年前失冠●→1966年後奪還◯
中原誠十六世名人
1967年後挑戦●→1968年前奪取◯
二上達也九段
1975年前挑戦●→1975年後挑戦●
屋敷伸之九段
1989年後挑戦●→1990年前奪取◯
郷田真隆九段
1992年前挑戦●→1992年後挑戦●
谷川浩司九段
1993年前失冠●→1993年後挑戦●→1994年前挑戦●
三浦弘行九段
1995年挑戦●→1996年奪取◯
深浦康市九段
2010年挑戦●→2011年挑戦●
棋聖戦90期中9期で10%
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番勝負で敗れて翌期にも挑戦しているケースは、おおよそ9%~17%。
たしかに、「タイトル戦で敗れるとその次の年はそのショックで勝ち上がって来ることが少ない」ということが言えそうだ。
棋士別(3期以上)では、
羽生九段 12期
谷川九段 7期
佐藤(康)九段 7期
大山十五世名人 6期
中原十六世名人 3期
米長永世棋聖 3期
郷田九段 3期
ショックからの立ち直りが早い指標と考えることもできるかもしれない。
一つ言えるとすれば、将棋マガジン1992年6月号でこの文章が書かれて以降、これらの数値は羽生九段自身が最も上げているということ。(この文章が書かれて以降の、番勝負で敗れて翌期にも挑戦しているケースが32期。うち羽生九段が12期。全体の38%を占める)
それから、棋聖戦以外では、連続挑戦でタイトルを獲得した例がないということもわかる。
ただ、これらのことが分かったからと言っても、すぐに何かの役に立つというわけでもなさそうだ…