小林宏五段(当時)「月並みだが頑張ってくれ。そしてまたうまい酒を呑もう」

将棋世界1994年11月号、小林宏五段(当時)の「東西奨励会奨励会成績」より。

 三段リーグの続きになるが、今期限りで田畑と小河の2人が年齢制限のため退会となった。

 田端は昭和52年入会で最古参。新四段となった矢倉と鈴木がまだ3歳の頃である。私は昭和53年入会なので、唯一幹事より先輩の奨励会員でもあった。

 また私にとっては入会して1局目が田畑6級であったし、四段に昇る最後の1局が田畑三段であったので、何とも言葉に表現しづらい複雑な想いがある。

 そんな訳でリーグ最終日の打ち上げ後、彼を含めて数人で久しぶりに痛飲した。

 田畑も小河も就職先は決まっている。話を聞くと二人ともそれぞれの棋風に合った仕事をとりあえずはみつけたらしい。

 月並みだが頑張ってくれ。そしてまたうまい酒を呑もう。


 9月の8、9、10日の3日間で奨励会旅行が行われた。

 場所は長野県の大町から黒部立山アルペンルートを抜けて岐阜県の高山へというコース。今年は2年に1度の東西合同旅行ということもあり、楽しみにしていた会員も多かったようだ。初日宿に到着後、恒例の将棋大会を行った。

奨励会旅行将棋大会。将棋マガジン1994年11月号より。

 今回はたまたま東西の人数が近かった(関東の欠席者が多かったせい)こともあり、東西対抗の団体戦を催してみた。ただ、関東はなぜか級位者の参加が少なくどうしても公正さに欠く。そこで考えたのがハンディキャップ戦。3番負け越しまでなら関西の勝ちにすることにした。結果は17勝10敗で関東の勝ち。団体戦なので個人が負けてもチームが勝ちさえすれば額の違いこそあれ賞金がもらえるのだが、「私は負けたのでいりません」という気持ちのいい男もいた。良い刺激になったことと思う。

 2日目のアルペンルートは好天気。普段まともな空気を吸っていない人間(結構いそうな気がする)には、良い薬となったかも。

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「また私にとっては入会して1局目が田畑6級であったし、四段に昇る最後の1局が田畑三段であったので、何とも言葉に表現しづらい複雑な想いがある」

小林宏五段(当時)の何ともいえない気持ちが伝わってくる。

田畑良太さんは、現在は指導棋士六段。

江古田将棋教室、石神井将棋教室、荒川こども将棋教室などで指導を行っている。

奨励会時代などには愉快なエピソードを残している。

郷田真隆九段が敬愛する兄弟子でもある。

奨励会の四の字固め

兄弟子同士、弟弟子同士が親友

新宿のナポレオン

小河直純さんは、現在はアマ強豪として活躍をしている。

野球チームのキングス・ジュニア(若手棋士、奨励会員チーム)ではピッチャーを務めていた。

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「2日目のアルペンルートは好天気。普段まともな空気を吸っていない人間(結構いそうな気がする)には、良い薬となったかも」

登山をこよなく愛する本格的アスリート・小林宏五段がこのように書くと、奨励会員たちが苛酷な登山をさせられているように思ってしまうが、立山黒部アルペンルートは、標高3000m級の山々が連なる北アルプスを貫く世界でも有数の山岳観光ルートで、長野県大町市「扇沢駅」から富山県立山町「立山駅」までの総延長37.2kmを、いくつもの乗り物を乗り継ぎながら巡る。このうち徒歩は600mだけで約15分。

立山黒部アルペンルートとは(立山黒部アルペンルート オフィシャルガイド)

『黒部の太陽』の主要な舞台となっている、難工事だった関電トンネルがルートに入っている。

映画『黒部の太陽』を観てから行くと感動が増幅されるはずだが、1968年の映画なので、参加者のほとんどが観ていなかったことだろう。

黒部の太陽