「ここで△4六角が、弟子の棋風も考えた上で解説の二上九段が予想した手。ところが、羽生の着手は△4六銀」

将棋世界1996年5月号、野口健さんの第45回NHK杯テレビ将棋トーナメント・決勝戦〔中川大輔六段-羽生善治七冠〕観戦記「九つめの戴冠」より。

 3月3日朝。東京・池袋にあるメトロポリタンプラザのメットホールでは、開場を待つ人の長い行列ができていた。NHK杯テレビ将棋トーナメントの決勝戦が初めて、公開対局で行われるのだ。

 決勝に歩を進めたのは、羽生善治七冠王と中川大輔六段。

将棋マガジン1996年5月号より、撮影は弦巻勝さん。

将棋世界1996年5月号より、撮影は弦巻勝さん。

(中略)

 この▲4七銀(3図)が、「大変なポカをやった」と中川が悔やんだ手で、ずっと▲4七金を考えていたのに、間違って銀を上がってしまったという。▲4七金なら△4六桂▲同金として、次に▲5六金と歩を払う手が残り、まだまだ大変だった。

 3図から△4六桂▲同銀△8八角成▲同金と進み、再度△5四桂に▲5五銀(4図)が、攻め合いに活路を見出そうという中川の勝負手である。

 ここで△4六角が、弟子の棋風も考えた上で解説の二上九段が予想した手。ところが、羽生の着手は△4六銀。「どうも師匠の言うことを聞かないね」と二上。局後の解説でも、「師匠の顔を立ててもらわないと」という言葉に、「そう言われてみると、そうでしたね」と羽生が答えて、場内の爆笑を誘ったところだ。

 ▲4四桂の反撃に、△5五銀▲3二桂成△同玉▲2四飛。ここで△2三歩は▲2一角があって受けにならないが、△3七銀(5図)。取れば、もちろん△4六角の王手飛車。ここで、中川が最後の考慮時間に入った。

(中略)

 対局後、観戦ファンの前に現れた両者は、万雷の拍手で迎えられた。

 七冠では物足りませんか、と水を向けられた羽生は、「そんなことはありませんが、大きなトーナメントなので優勝を目指してやってきました」。七冠に加え、早指し選手権、そしてこのNHK杯優勝と、1995年度はまさに羽生一色だった。

 中川は「まずい将棋をお見せして残念です。もう一度勉強して出直します」。また、この後の祝賀会では「今日は最高の勉強の場で、瞬きするのも惜しいくらいでした」とも。残念な結果だったが、爽やかな戦い振りは大いに称えられる。

 その中川にとって最高の激励は、婚約者・宮崎志摩子さん(囲碁プロ三段)の次の言葉だろう。「私の対局より緊張し、私が負けた時より悔しかったです」

将棋マガジン1996年5月号より、撮影は弦巻勝さん。

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羽生善治七冠誕生直後ということもあったのだろう。この年のNHK杯戦決勝は公開対局で行われた。

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「どうも師匠の言うことを聞かないね」

「師匠の顔を立ててもらわないと」

二上達也九段の解説が、あまりにも絶妙だ。

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「ここで△4六角が、弟子の棋風も考えた上で解説の二上九段が予想した手。ところが、羽生の着手は△4六銀」

言われてみると、「羽生善治九段の棋風」と言っても、一言では説明できないというか、全宇宙を包み込むようなオールラウンド型の棋風なので、なかなか想像するのが難しいことに気がつく。

△3七銀(5図)が格好いい。

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中川大輔六段の「今日は最高の勉強の場で、瞬きするのも惜しいくらいでした」、

宮崎志摩子三段の「私の対局より緊張し、私が負けた時より悔しかったです」

も格好いい。

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