羽生善治七冠(当時)「将棋以外のことは読めません」

NHK将棋講座1996年6月号、大矢順正さんの「将棋マンスリー」より。

将棋マガジン1996年6月号より、撮影は弦巻勝さん。

 初の七冠王になった羽生に対する総理大臣顕彰式が、3月21日に永田町の総理大臣官邸で行われた。

 総理大臣顕彰は学術や文化に顕著な功績のあった個人や団体に与えられるもので、個人では27人目。

 羽生は7つの冠に加えて、もう一つの栄誉を得た。

 式の後に総理らと懇親会に出席し、総理から「住専問題で、いい次の一手はないか」と聞かれた羽生は

「将棋以外のことは読めません」と軽くかわし、記者陣から「橋本総理は将棋の駒にたとえると?」の質問には、少考の後に「鋭い切れ味のある角、といったところでしょうか」と答えた。

 いっそのこと、龍太郎を角太郎に改名したら難局の政局を乗り切れるかも。

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総理大臣顕彰は、1966年(佐藤栄作内閣)から開始され、2020年12月時点で個人に対して33件、団体に対して16件が顕彰されている。

1996年までの例としては、

1970年(佐藤栄作内閣)の山村新治郎運輸政務次官・日本航空「よど号」乗員(よど号ハイジャック事件での人質乗客救助)

1986年(中曽根康弘内閣)の中野浩一さん(世界選手権自転車競技大会でのスプリント10連覇)

1988年(竹下登内閣)の日本鉄道建設公団(青函トンネルの完成)、本州四国連絡橋公団(瀬戸大橋開通による児島・坂出ルート完成)

1992年(宮沢喜一内閣)の毛利衛さん(宇宙飛行士 日本人初のスペースシャトル搭乗者)

など。

羽生善治七冠(当時)の直前は、1994年(村山富市内閣)の向井千秋さん(日本人初の女性宇宙飛行士)、直後は1997年(橋本龍太郎内閣)のチャビン・デ・ワンタル作戦実施部隊(ペルー陸軍特殊部隊:在ペルー日本大使公邸占拠事件での人質救出)だった。

2017年(安倍晋三内閣)には、井山裕太七冠( 囲碁史上初の七大タイトル独占)、2020年(菅義偉内閣)には、はやぶさ2プロジェクトチームが顕彰されている。

内閣総理大臣顕彰受賞一覧(内閣府 PDF)

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写真にあるように、羽生七冠から橋本龍太郎首相には、「泰然自若」と箱書きされた将棋盤と駒がプレゼントされた。

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「住専問題で、いい次の一手はないか」

住専問題は、住宅金融専門会社(不動産会社および個人向けの住宅ローンを主に取り扱う貸金業)各社の巨大な不良債権の問題。

バブル崩壊後の地下暴落により住専が融資した資金は回収不能の債権となるものが多く、住専の経営は行き詰まり、日本の金融システムを揺さぶりかねない問題となっていた。

しばらくの間(海部内閣終盤~宮沢内閣~細川内閣~羽田内閣~村山内閣の期間)、景気回復による住専の再建が期待されたが、それは希望的観測に過ぎず、村山内閣後半の1995年3月に問題が噴出した。

橋本内閣は1996年1月の発足で、過去から引っ張ってきた問題に立ち向かわなければならない状況だったが、1996年6月に、住専処理法を成立させている。

「住専問題で、いい次の一手はないか」は内閣発足2ヵ月後の言葉であり、橋本首相の本音も少しは入っていたかもしれない。

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住専問題は、当時は毎日のように新聞やテレビで大ニュースとして取り上げられていたが、今となっては一般的にはほとんど忘れられていること。

しかし、羽生七冠誕生は、いつまでも人の記憶に残っている。

 

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