勝負師の魂

土曜日は、京王プラザホテルで行われたNTTル・パルク杯天河戦第1局、中井広恵六段-成田弥穂女子アマ王位戦の公開対局・大盤解説会へ行ってきた。(→中継および棋譜

公開対局・大盤解説会は満員で70~80名の入り。指導対局も大勢の人が申し込んでいた。

公開対局は、13時台と14時台の決められた時間に別室で行われている対局を見にいけるというもの。

結果は中井広恵六段の勝ちとなったが、成田弥穂女子アマ王位の序盤、中盤の指しまわしが見事で、成田女子アマ王位の強さがいかんなく発揮された見事な一局だった。

終盤の中頃まで、圧倒的に成田女子アマ王位の優勢。中井六段の持ち味が封殺されていた。

中井六段の側からみると、野球でいえば9回裏、5対0でリードされ、二死ランナーなしまで追い込まれた状態。

図は、大盤解説会で高橋道雄九段が「次の一手当てクイズ」を出題した局面。この時点で高橋道雄九段は、成田女子アマ王位の勝ちという結論だった。図より22手前の51手目、中井六段の▲4一角を見て、観客席に座っていた夫の植山悦行七段が「ああぁ、もう駄目だ、負けちゃうよ」と嘆いたほどだ。

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石橋女流王位も「成田さんが勝ったらLPSAの代表は成田さんになっちゃいます」と冗談を言うほどだった。

大盤解説会場の雰囲気も成田女子アマ王位勝ちのムード。私もそう思っていた。

図以下、△9四歩▲同香△9五歩▲同香△9六銀。

成田女子アマ王位が指すたびに、場内からは感嘆の声があがる。

しかし、ここから中井六段が逆転をする。

わずかな敵陣の綻びにアヤをつけ、敵陣の傷口をわずかずつ拡げ、自らは肉を斬らして骨を絶ち、相手の誤爆を誘引し指し切りにさせ、最後は詰めてしまう。

中井六段に、百戦錬磨、修羅場を何度もくぐり抜けてきた「勝負師の魂」を見せてもらったような感じだ。

公開対局の時間に、私は対局中の中井六段の表情を見た。

この時点では形勢に開きはなかったが、比較的小柄な中井六段が大きく見えた。そして一瞬無意識に対局相手を見るときの鋭い視線。

中井六段とは将棋ペンクラブの対談の時に至近距離でお会いしているが、普段の中井六段は笑顔の素敵な、とても優しい雰囲気の持ち主だ。

ところが勝負の場は別の顔。優しさは、凛々しさと鋭さに変わっている。

向かいに座って将棋を指したら、絶対に圧倒されてしまうと思う。

一方の成田女子アマ王位は淡々と盤面に没頭していたようなので、自分の将棋を指せたのだろう。

とにかくこの一局、序盤から終盤の中頃までは成田女子アマ王位の良さ、最後は中井六段のプロ中のプロの勝負師としての技を堪能することができた素晴らしい内容だったと思う。

中継の素晴らしさなどについては、また明日。