「祭りはここまで。オレが終わりにしてやるぜ」

近代将棋2005年12月号、池崎和記さんの「関西つれづれ日記」より。

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 朝、B級2組順位戦の内藤-杉本戦と桐山-畠山戦の対局風景をカメラに収めてから控え室にいくと橋本五段がいた。「やあ、ハッシー(橋本さんのこと)、ずいぶん早い出勤だけ」と声をかけると「東京から帰ってきたところなんです」という。

 3日前、東京で竜王戦3組の野月-橋本戦があった。昇級決勝戦の決勝だ。その大勝負を制して(4年連続の昇級決定!)凱旋してきたわけだが、東京では親しい棋士たちと飲みにいって(本人は「たかられた」と言っているが)大盤振る舞いをしてきたらしい。気前がいいんだね。

 そのハッシーが神妙な顔で「週刊将棋で大口をたたき過ぎました」というので、僕は吹き出してしまった。

 その記事は読んだ。10月に天野高志アマとの平手戦(週刊将棋の企画)があるが、ハッシーは同紙で「祭りはここまで。オレが終わりにしてやるぜ」とコメントしているのだ。

 プロレスラーみたいでおかしいが、リップサービスではあっても勝利宣言には違いない。でも天野さんの強さはハッシーも昔からよく知っているから「ちょっと言いすぎた」と反省しているのである。活字になってから弱気になるところがかわいい。

 そのハッシーを誘って喫茶店でモーニングコーヒー。ここでも面白い話を聞いた。

 その1。最近、東京の某若手(実名は書けません)が恋に目覚めた。

 その2。先日、関西将棋会館で女性ファンを対象とした将棋イベントがあり、山崎六段と一緒に出席したハッシーは、ライバルが女性に恐ろしくモテるので、大変なショックを受けた(そうな)。

「山崎君にだけは負けることはないと思ってたけど、手合い違いでした。ショックで、僕はその後、公式戦で2連敗しました」。

 笑わせてくれるハッシーである。

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ここに出てくる週刊将棋アマプロ平手戦で、橋本五段(当時)は天野アマに敗れてしまった。

週刊将棋には、橋本五段の自戦記が載った。前の晩に酒を飲んだこと、アマに敗れた苦悩などが率直に表現された非常に面白い文章だった。

この自戦記は2006年の将棋ペンクラブ大賞観戦記部門の候補作となり、最終選考会で討議された。

高田宏さん(作家)は橋本五段の作品を観戦記部門の佳作として推したが、田辺忠幸さんが反対した。プロがアマに敗れた自戦記などありえないという田辺さんの強い信念のもとの反対だった。

観戦記部門では他の作品が選ばれることになる。

一般部門。候補作が複数あったが大賞・佳作に該当する作品は無し。

ここで、さっきの橋本五段の自戦記を一般部門佳作にしては、という案が持ち上がった。

橋本五段の自戦記は、棋譜の解説よりも心理描写に重きを置いたもので、読み物に近い作品でもあった。

田辺さんも、一般部門の作品としてなら佳作に異存なし、という意見。

そのような経緯で、橋本五段の自戦記は、2006年将棋ペンクラブ大賞一般部門佳作を受賞することとなった。

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2002年頃だったと思う。新宿の酒場に入っていくと、隣の席で金髪の青年がカラオケで歌っていた。感情がこもったシャウト系の歌い方だった。

歌が終わると、青年は私に「うるさくてすみませんでした」と言って頭を下げた。

私は大音量の歌はまったく気になっていなかったのだが、なんと礼儀正しく清々しい青年だろうと、とてもほのぼのとした気持ちになった。

後で店の人が、その青年は橋本崇載四段であると教えてくれた。