プロ棋士たちの麻雀大会

各棋士の雀風。

近代将棋2004年7月号、スカ太郎さんの「関東オモシロ日記」より。

 森内二冠王が予行演習までして備えたプロ雀士対プロ棋士による親睦麻雀大会「第1回雀将戦」が4月19日に御茶ノ水の雀荘で行われたのである。

当日は日本プロ麻雀協会からプロ雀士が12人、日本将棋連盟からプロ棋士が8人参加し、四角い緑のジャングルで激闘を繰り広げることになった。

御茶ノ水駅で集合し雀荘まで歩いて行く途中に、はやくも何かしでかしてくれそうな雰囲気をかもしだしていたのが幸せの絶頂「みっくん」こと佐藤康光棋聖である。

「4人麻雀なんて本当に久しぶりでどうなっちゃうんでしょうか(笑)。えっ、今日はフリテンリーチもありなんですか? ええっ、えええーっ、リーチを掛けた後、当たり牌が出ても見逃すことができるんですか。そんなことする人いるんですか?」

という康光棋聖に、「オーラスで安めで上がってもトップにならないような場合にわざと見逃して、高めツモに懸けてトップを狙うような場合があるんです」と丁寧に解説する中田功六段であった。しかし、康光棋聖は我々の期待通りに華々しい活躍をしてくれたのである。

今回の麻雀大会は予選でおのおのが半チャン4回を打ち、トータルポイントの上位4人が決勝へ進出。決勝戦で半チャン1回勝負を行い、その勝者が栄えある第一期雀将位を獲得することになっている。

(中略)

さて予選もいよいよ最後の半チャンとなった第4回戦目、皆が決勝進出を狙い、緊迫したムードの流れる中にその事件は起こった。

「ロン」といった康光棋聖が「あああーっっ」と叫び声をあげたのだった。康光棋聖は、場に捨てられた五萬を「ロン」してしまったのだが、「ロン」を宣言してから役がないことに気がついたのだった(おそらく婚約による幸せボケだと思います)。手牌を倒さずに「これ、チョンボですよね」と康光棋聖はチョンボ料を払おうとしたが、同卓にいた竹内孝之プロと岩沢和利プロが「まあまあ」、「なかったことに」と優しくその場をまとめ、康光棋聖の上がり放棄で続行となった。

このあたりは指導対局でプロ棋士がアマチュアの二歩を「まあまあ」といって許すような雰囲気に似ていたかもしれない。しかし、この温情が竹内プロにとって致命傷となってしまうのである。

その局の終盤に、今度は泉正樹七段が大きな声で「ロン!」と叫んだ。

なんと四暗刻単騎待ちの役満である。上がりの直前に四暗刻テンパイとなった泉七段は、3枚見えていないドラの六索を強打し、2枚見えている地獄待ちの八索で上がったのだからすごい勝負手だった。振りこんだのは「まあまあ」と精一杯の温情で場を収めてくれた竹内プロ。竹内プロはリーチを掛けていて、もう回し打ちが利かない格好での振り込みなのでしょうがなかった。

ちなみにドラの六索は康光棋聖がその後1枚手中に加え3枚持ちだったので実質カラテン。野獣流泉七段、快心のガオガオ役満だった。この結果、役満をかっとばした泉七段が急浮上で決勝に進出。そのあおりをくらって5着に落ち、決勝に進むことができなかった先崎学八段がむっとした表情になったのが印象的だった。ああ、半分お遊びのような大会ではあるものの、勝負師の本性があちゃこちゃで見られるのはなんだかとても面白い。

そして決勝卓でもガオガオ旋風は吹き荒れた。

オーラスを迎えてトップは微差ながら泉七段。中を鳴いて速攻での逃げをはかったが、そこに2着目からリーチが掛かるという、えらく緊迫した局になった。

オイラは遠くから見ていたので、詳細はよく分からないのだが、その数順後、泉七段の「カン」の発声には本当に驚いた。ツモってきた中を加カンしたのである。

これは普通なら無謀な行為である。カンすればドラ、裏ドラともに増え、リーチを応援しているようなものだからだ。しかし、後ろで見ていた中田功六段情報によれば、これが気持ちのよい勝負手だったという。中をカンしたとき泉七段の手はまだイーシャンテンで、リンシャン牌でテンパイしたのだそうだ。2着目のリーチに対してガオガオとほえまくりながら、この1300点の手をガッツで上がりきった泉七段が栄えある第一期雀将位に輝いた。

「エルゥ、やったぞ!」と愛犬エルちゃんの名前を叫びながら喜ぶ泉七段。あれ、よくみたらこの雀荘のあちゃこちゃに愛犬エルちゃんの写真が…。

「この雀荘には週2回来て、半チャン7回を消化するのが最近の目標です」という泉七段。さらによくよく見れば、泉七段の麻雀初段認定状が張ってあるではないか。よくみたら、対局数もトップクラスだったりして…。

どうやら今回の野獣ガオガオ流の勝利は、日頃の鍛錬に裏打ちされた優勝かもしれません。本当におめでとうございました。

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この大会の模様は、近代将棋の同じ号の、本田小百合女流二段「棋界突撃ルポ」にも書かれている。

出場棋士は次の通り。(各棋士の雀風は、全ての棋士と手合い済みの某棋士によるもの)

森内俊之棋王

鉄板流。王将就位式で鉄板流と紹介されましたが、実は鉄板流は麻雀仲間の命名とか。4人麻雀は経験不足で迷走中。

佐藤康光棋聖

将棋は緻密流だが、麻雀はおおらかで、やや恐怖感をもっている。

先崎学八段

自他共に認める優勝候補。バランスの取れたプロ好みの雀風で自ら「小バクチの勧め」を上梓するギャンブラー。

滝誠一郎七段

百戦錬磨の真剣師タイプ、見切りの速さは抜群。

久保利明七段

4人麻雀は未経験。華麗な駒さばきが身上だがサンマーでは手なりで、ただ一人のサウスポー。

郷田真隆九段

長考派で自己心酔型。手作りを楽しむ作戦巧者。

泉正樹七段

年季の入ったセミプロ級の豪腕。ガオ~と野獣が吼えると相手も萎縮する力を発揮する。

中田功六段

筋のよさはピカ一でダークホース。計算されたバランスのよさで夢を見る手作りに酔う。

本田女流二段によると、泉七段が四暗刻単騎を上がった時、「ガオ~ッ」と突然凄い奇声が上がったと書かれている。

主な成績は、郷田九段が3位、先崎八段が5位、滝七段が7位。

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泉七段の愛犬エルちゃんはスコティッシュテリア

近代将棋の泉七段の講座では、毎回エルちゃんの話と写真が登場していた。

ちなみに、升田幸三実力制第四代名人の飼い犬もスコティッシュテリアだった。

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野獣流 泉正樹七段の「ガオ~ッ」は酔っ払った時や役満を上がった時にしか聞くことはできないが、「ガオガオ」は普段の会話でもよく使われる。

2008年のNHK杯 泉正樹七段-行方尚史八段戦の感想戦では、泉七段の「ガオガオ」はもちろんのこと、行方八段まで「ガオガオ」と喋っている。