「こんな将棋を指していては先が思いやられますねェ」

近代将棋2004年7月号、故・池崎和記さんの「関西つれづれ日記」より。

4月某日

 ホテル阪神で山崎五段のC1昇級と片上新四段の昇段、および野間俊克さん(指導棋士)の五段昇段を祝う会。

 パーティーは午後6時からだが、2時から記念指導対局があると聞いていたので観戦した。師匠の森信雄六段を筆頭に一門の棋士たちが多面指しをしていたが、故・伊達康夫八段門下の伊藤六段と児玉七段も指導に加わっている。これには事情がある。

 最近のことだが、森さんが児玉さんと伊藤さんを誘ってマージャンをした。結果は森さんの一人勝ちで、森さんは「悪い、悪い。今度やるときはわしが晩メシおごるから」と言って帰っていった。

 そして後日、2回目のマージャンをやったが、今度は森さんの一人負け。しかし前の約束を反故にはできないので夕食をごちそうした。恐縮したのは児玉さんと伊藤さんで、「申し訳ない。こうなったら祝賀会の指導対局を手伝うよ。もちろんボランティアで」となったのである。

(中略)

 パーティーの出席者は約160人。壇上に上がった3人の主役を見ていると僕もほっとした気分になる。山崎さんと片上さんは2人が奨励会に入る前から知っているし、野間さんとも古い付き合いである。

 山崎-片上のお好み対局(解説は浦野七段)は兄弟子が快勝。局後、マイクを向けられた山崎さんは「片上君もこんな将棋を指していては先が思いやられますねェ」といって笑わせた。

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いかにも森信雄七段らしいエピソードと、山崎隆之七段らしいジョークだ。

山崎五段は翌年、朝日オープンの挑戦者となる。

池崎さんの朝日オープンの観戦記より。

 羽生の出身地、埼玉県所沢市で行われた前局で山崎は大優勢の将棋を落とした。秒読みに追われての逆転劇だったが、勝っていたら1勝1敗のタイになっていたから、本人にとっては相当なダメージだったと思う。

 だが大阪に帰ってきた山崎は、そんなそぶりはまったく見せなかった。いつものように関西将棋会館の控室にやってきて若手棋士や奨励会員と練習将棋を指していたし、1日に大阪市内のホテルで開かれたNHK杯優勝祝賀会(約200人のファンが出席した)でも笑顔を見せていた。

 そのパーティーで、研究会仲間でもある谷川浩司九段がこんなエールを送った。「1局でも長く、極端にいえば1時間でも1分でも長く、羽生さんの前に座っていること。これが大事です」

 対する山崎のあいさつがふるっていた。「最後まであきらめるなと。でも“勝て”とは言われなかったので(場内爆笑)、ずいぶん気が楽になりました」。この明るさが山崎の持ち味である。

山崎七段に女性ファンが多いのは、必然の流れだと思う。

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