「軽井沢から戻ってずっと同じ所に住んでます」

ほぼ6年前の渡辺-丸山戦。

NHK将棋講座2006年5月号、2005年度NHK杯トーナメント決勝(渡辺明竜王-丸山忠久九段戦)観戦記、小田尚英さんの「丸山、竜王を突き放す」より。

 決勝戦は、ふだんとは違う手順で行われる。司会者がつき、事前にインタビューがある。対局後には表彰式も行われる。晴れやかであり、また少し重苦しい空気である。今年ここまでたどり着いたのは渡辺と丸山。ともに初進出で、どちらが勝っても初優勝となる。

 21歳と35歳。2人は、年も違うが性格も異なる。ネット上の日記、ブログで対局の様子や家庭生活をつづる渡辺。一方の丸山は私生活を語らない。対局前の雑談で聞き出せたのは「軽井沢から戻ってずっと同じ所に住んでます」という話だけだった。この間に結婚、長子誕生という大きな変化があったのだが。

 共通点はある。横歩取り中座飛車戦法の使い手で、これを原動力に丸山は名人に、渡辺は竜王になった。「8五飛研」という研究会があるのだそうだ。中座真五段、松尾歩五段、飯島栄治五段、村山慈明四段らのメンバーに2人は加わっている。もっとも渡辺によると、8五飛研は実戦主体で、あまり言葉を交わすことはなかったらしい。

(中略)

 渡辺の右手が盤の右側に伸びて、初手。んん? これは。見慣れない局面の感覚に一瞬、頭が混乱した。スタッフから「やってくれますねえ」の声が上がる。初手▲3六歩。放送されなかったけれど、解説の米長邦雄永世棋聖は両方の手を振り、足を上げて楽しそうに踊った。感想戦で米長「この相手にはこの程度で、だろ」、渡辺「そうです」。

 昨秋の竜王戦七番勝負第1局で、公式戦初めての1手損角換わりを採用したのを思い出した。将棋を楽しませるというプロ意識が高い渡辺。▲3六歩はファンサービスである。と同時に「定跡形ではなく力で勝負」という強い意思表示でもある。

(以下略)

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この将棋は、逆転が二度あって丸山九段が勝った。

小田尚英さんは読売新聞専門委員。文化部で竜王戦も担当しており、2005年には「第53回NHK杯準決勝第1局 羽生善治-丸山忠久戦」 で将棋ペンクラブ大賞観戦記部門佳作を受賞している。

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2005年まで小田さんが書かれていた「よみなお日記」(竜王戦中継の竜王戦倶楽部のサイトで書かれていた)は、とても面白かった。

竜王戦倶楽部のサイトがなくなったため今では読めなくなってしまったが、昼の出来事はもちろんのこと、一緒に飲みに行った棋士の話、酒場で出会った棋士とのエピソードなど、珠玉の話題が満載だった。

小田さんとは何度も朝まで飲んだことがある。

「いつも飲んだ話ばかりでイヤになっちゃった」と「よみなお日記」について語っておられたが、将棋史的にも非常に貴重な日記だった。

観る将棋ファンが増えている現在では、更に喜ばれる日記だと思う。

「よみなお日記」は個人的にはぜひ再開してほしいものだと願っている。

          

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