NHK将棋講座2006年5月号、東公平さんの「将棋界名棋士列伝」より。
加藤博二先生(九段)も、温厚ではあるがしぶとい勝負師であった。五十嵐先生とは四段のころ、いっしょに下宿していたそうである。
余談になるが、加藤先生のエピソードを紹介しよう。
中野区にあった将棋連盟本部は昭和通りに面していた。あるとき、加藤先生がバスに乗ろうとしたときに、意地悪な運転手だったとみえてバタンとドアを閉めて発車してしまった。加藤先生はすぐにタクシーを呼び止め、「どちらまで」と聞かれると「あの前を走っているバスがいるだろう。あいつを追い越してくれ」と言い、次の停留所でバスに乗り換えた。
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普通なら、そのような忌まわしいバスは諦めて次のバスを待つとか、タクシーで目的地まで行ってしまうとかなのだが、そうではない。
もちろん、温厚な加藤博二九段はバスの運転手に苦情を言うつもりでもない。
これこそ、しぶとい勝負師魂なのだろう。
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タクシーをつかまえて「あの車を追いかけてくれ」という言葉は、昭和の刑事ドラマでの定番台詞だった。
もっと古い刑事ドラマだと、取調室での「なあ、故郷のお母さんが悲しむぞ。カツ丼食えよ」が定番台詞だった。
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有史以来、人間によって最も多く語られた二大定番愚問があるという。
阿刀田高さんの本で読んだ記憶がある。
ひとつが、釣り人に向かって「釣れますか?」。
たしかに余計なお世話な雰囲気だ。
もうひとつが、「君のようないい子が、どうしてこのような所で働いているんだい?」。
風俗店で働いている女性に対して男性客が言う台詞である。
これは、もっと余計なお世話だと思う。
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月末。
「○○ちゃん、今日よかったら同伴出勤してくれない?今日同伴してもらえるとお店で売り上げNO.1になれるんだ。こういうこと頼めるのって、、○○ちゃんしかいないんだ。お願い」
昭和の頃の銀座のクラブの女性の、定番殺し文句だ。