将棋ペンクラブが発足したのが1987年11月27日。
この日に発行されたのが、将棋ペンクラブ通信創刊号「題名未定」。
現在の将棋ペンクラブ会報の創刊号にあたる。
題字は団鬼六さん。
巻頭言は井上光晴さん「将棋とは何か」。
全部で16ページ。
主な投稿を見てみたい。(敬称略)
双手をあげて大賛成 山口瞳(作家)
どんな分野でも、評論家、担当記者が優秀でなければ大きく発展しません。タイトル戦前夜祭で、観戦記者が末席に坐り、雑用さえ受け持っているのを見て何度も情けない思いをしました。将棋ペンクラブの発会は双手をあげて大賛成です。
自由の広場に 二上達也(棋士・九段)
自由の広場に集い健全な発展を祈ります。
「ペンは剣よりも強し」
古いけれど含みがありますなー。
旭川より 三浦綾子(作家)
顧問の中に名をつらねさせて頂き、どこかもぞもぞしています。最も下手な、最も役立たずが、どうして顧問にしていただいたのでしょう。とにかく「亭主の好きな赤烏帽子」こと将棋のこととあれば、せめて遠い旭川から声が届くようご声援申し上げます
入門の頃 原田泰夫(棋士・九段)
関根金次郎十三世名人(明治元年生まれ)のお言葉。
「そうか、お前が原田か、上京したばかりじゃ弱い筈だ。「負けろ、負けろ、負けて覚えて強くなれ。今度は違う話をするから、よく覚えておけ。俺のかかーは俺の歳の半分だから、近頃俺を馬鹿にする。そこで昨日の晩は奥の手を出してやったら眼をつむりやがった。俺が言ったとおり大声で復誦してみろ。よし、お前は有望だ。そのとおり師匠の加藤治郎夫婦に報告しろ」
昭和12年4月(原田14歳)、加藤先生の内弟子になった直後、議事堂近い関根邸参上の時の強烈な想い出。
会の名前がいい 高田宏(作家・日本ペンクラブ理事)
ご案内をいただいてまず「将棋ペンクラブ」のネーミングが良いと思った。職能団体的なライターズなんとかよりもよほど良いし、志高い感じがある。現今は立派な専門家もいらっしゃるが、将棋というのはもともとが遊びであり、世俗からかなり離れたところに知的な別世界をつくるものだ。だからこの会は世のなかの雑事とか政治などのくだらないことから自立していかなくてはならないと思う。その意味で「将棋ペンクラブ」には「竹林の七賢人」にも似た、さわやかな感じがある。設立パーティーにはなるべく出席して、会員のみなさんにお会いしたいと思っている。
ワードプロセッサー 若島正(神戸大助教授・観戦記者)
最近ワープロを購入してすっかり機械の御厄介になっているのですが、「将棋ペンクラブ」発足とのことで、これからも観戦記だけはやはりペンで書くことにします。
二足のわらじ 田中宏道(日本棋院編集部)
ママの美しい顔を見ているうちに酔っぱらってしまった。ひょいと隣りを見ると真部七段だ。
「将棋のプロで碁のプロがいたっておかしくないでしょう」
と荘重な声でいう。私は気が小さいので「エエ」とおとなしく答える。
「私を碁のプロにして下さいよ。あなたならできるはずだ」
私は意気地がないので、「もちろん、なんとかしますよ」と大きな声で約束した。数日後、将棋連盟で、真部さんに会ってしまった。
「ちゃんと覚えているでしょ、まさか冗談じゃないんでしょ」
あれから「あり」と「連盟」には行かないことにした。
近況おわり。
字マンガ バトルロイヤル風間(漫画家)
字でマンガを書きます。
1コマ目
かざまのアップ。「今日からぼくもペンクラブの人だから、それなりの行動をとらねばならぬ」
2コマ目
「おでん屋でもハンペンを食べるしー」
3コマ目
「動物園でもペンギンを見るしー」
4コマ目
「マンガもペンでかこう!!」と言って、墨汁のついた焼き鳥のクシを差し上げる。
(フィクションです)
一生稽古 東公平(観戦記者・将棋ペンクラブ副会長)
菊池寛、佐々木茂索、里見弴、滝井孝作、豊田三郎、藤沢恒夫、永井龍男、大岡昇平、小島政二郎、五味康祐、山口瞳、石堂淑朗、江國滋、斎藤栄、渡辺淳一、虫明亜呂無、井上光晴、赤城駿介、高木彬光、戸部新十郎、色川武大(阿佐田哲也)、林秀彦。
右の二十二人の共通点を答えよ、と入学か入社の試験に出題したとする。「作家」「文学賞受賞者」では正解にならない。「将棋好き」と答えても、百点は与えられない。
正解は「将棋名人戦の観戦記を新聞に書いた人たち」である。急いで調査したため一人二人書き洩らしているかも知れないけれど「へえ。そうなのか」とびっくりなさる方が少なくないだろう。豪華メンバーである。
他に王将戦、名将戦などの社外観戦記者は調べきれぬほどだし、幸田露伴、志賀直哉、坂口安吾、岡潔ら”国宝級”の作家や学者が将棋をテーマとした文章を数多く発表している。また、野口雨情が詩では全然食えない時代にドサ回りの将棋指しでしのいでいた話がある。プロ初段の力を持ち、アマ六段で文壇名人の菊池寛が「キミは素人じゃないからだめだ」と雨情を仲間外れにした。
山口瞳さんは「観戦記者の地位向上を」と我々になりかわって書いて下さるが、地位の二文字は「実力」の誤植ではないかと私は思う。しかるべき待遇と報酬をかち取るための第一条件は、筆力の向上である。金は、仕事の後からついてくるものだろう。我等専業ライターは命がけで勉強しなければいけない。文学的であろうが、講談のようであろうが、マンガ的であろうが、それは別問題。要は、多くの読者に楽しみ、満足してもらえる作品であればいい。「将棋ペンクラブ」設立を機会に初心に立ちかえって、前途を切り開いて行く覚悟をした。
観戦記者は映画監督である 団鬼六(作家)
棋士が将棋を指して作った一局の棋譜が原作だとするなれば観戦記ライターはその原作を映画化する人だと私は思う。観戦記者はいわば監督であって、つまらない原作でもこれが映画化されれば、結構面白くなる場合がある。その逆に原作は面白いのに映画化されると全くつまらなくなったという事もあるわけだ。
名人戦の名局を観戦記ライターの名調子で読んだ時の感激というものは文芸の名作を読んだ時の感動と相通じるものがある。また、我々の指す縁台将棋だって観戦記者の包丁さばきによっては結構、面白いものになるわけだ。
しかし、一口に観戦記といっても、どう描けば将棋ファンは納得するか、これはむつかしい問題で、未解決になっている所もある。プロも読む。アマ強豪も読む。縁台将棋クラスも読む。将棋、覚えたての人も読む、という事になると、そのいずれの層にも納得させ得るような観戦記というものは骨の折れる仕事だと思う。強いのになってくると、対局場のくわしい情景描写より、一局の将棋の細密な開設に重点をおけというし、私のようなへぼになってくるとあのくわしい変化図というのはどうしても苦手で悪いけど飛ばして読んでしまうという事になる。また対局者は昼メシに何を喰ったかという事を知りたいファンもいるわけだ。
そんな所にも神経を使わなければならない上に観戦記者というのは将棋がわかって幾程度、筆が立つというだけではなり切れるものではない。将棋史も充分に勉強しておかねばならぬ。大橋宗桂なり天野宗歩なりが比喩的に何時、登場するかわからないし、南禅寺の決戦、天竜寺の決戦など棋界、激動の時代にも精通しておかねばならない。現在の棋界の情勢にも通じ、棋士と親しくなければならない。大して報われる事はないのにどうしてそんな道を選んだのかと私は観戦記者何人かに聞いた事もあったが、つまり、彼等は棋士以上に将棋を愛している人達なんだ。理屈ぬきで将棋と取り組んでいる事が幸せだという。
そんな人達が集まって、観戦記というものを向上させ、確立させるためにペンクラブが発足したわけだが、私は心から拍手を送りたい。観戦記をもっとよくするための勉強会みたいなものですよ、と、河口さんはいったが、大いに結構、どうか、棋士の皆さん、応援して下さい。私も応援します。
—–
ひとつひとつの文章が、このブログでの1記事にできそうな内容のものばかりだ。
小出しにしようかとも思ったが、将棋ペンクラブができた頃の雰囲気を忠実に再現したいと思い、一挙掲載とした。
—–
発足時は、河口俊彦会長、東公平副会長、加藤治郎名誉会長の体制。
当初は将棋ジャーナリストの団体という色彩が強かった。
会則も、現在では当時のものから変化している。
第3条(目的)
(発足時)
この会は将棋ジャーナリスト相互の親睦を図り、その職能を擁護確立し、あわせて将棋の普及に寄与せんとする。
↓
(現在)
この会は将棋と文章を愛する人の集まりで、会員相互の親睦と将棋ジャーナリズムの擁護・育成を図り、あわせて将棋の普及に寄与する。
第6条
(発足時)
この会への入会希望者は会員二名以上の推薦をもって申請し、幹事会の承認を得るものとする。
↓
(現在)
この会への入会希望者は会費を添えて事務局へ申し込むこと。資格は問わない。
—–
ここまで書いたので、久々に将棋ペンクラブへの入会方法も載せておきます。
1~12月での会員年度となるため、今入会すると、今年の会報の春号、夏号、秋号が送られてきます。そして12月に冬号。
今年の会報をご覧になりたい方は今年中の入会、来期から入会されたい方は、2012年1月以降の入会をお勧め致します。
[将棋ペンクラブへの入会方法]
入会資格は一切ありません。入会金も不要です。
下記振替口座への会費納入をもって入会となります。
○年会費:3,000円
(賛助会員、法人会員は10,000円)
○郵便振替 00270-9-45693 将棋ペンクラブ
- 会報が送られますので、通信欄に住所、氏名、電話番号をお忘れなくご記入いただけますようお願い致します。
- 毎年、会報の冬号には会員名簿が掲載されますが、住所掲載を希望されない方は、その旨、申し込み時の通信欄に「県名まで」「市町村名まで」など掲載可能範囲を御記入いただくか、事務局までご連絡ください。
- 会費の期間は1月から12月までになります(途中入会も同じ)。
- 賛助会員・法人会員は交流会への参加が無料となります。
会員になると
- 3月、9月には雑誌「将棋ペン倶楽部」(64~104頁)が。 6月、12月には冊子「将棋ペン倶楽部通信」(32頁位)が届きます(計・年4冊)
- 将棋ペンクラブ大賞候補作の推薦ができます。
- 会報への投稿ができます。
また、5月には東京と大阪で交流会が、9月には将棋ペンクラブ大賞贈呈式が開催されます(会費は別途必要です)。
不明な点は下記事務局へお問い合わせ下さい。
[事務局]
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町 1-8 アカシヤ書店内 将棋ペンクラブ
メール:penclub◎akasiya-shoten.com (◎を@に変更して送信)
☆将棋ペンクラブ会員の方は、アカシヤ書店で5%引きで本を購入することができます。