羽生善治棋王(当時)の忘れ物

将棋マガジン1992年9月号、「羽生善治の次の一手&詰将棋&クイズ」より。

忘れ物

 僕は忘れ物、落し物が多くて自分でも困っています。

 一番多いのはカサ、次にセカンドバッグです。

 セカンドバッグは電車の網棚に忘れるのが多くて、東京駅の遺失物取扱い所には何回も足を運びました。

 先日は財布を落として散々な目に遭いました。金額は大したことはなかったのですが、免許証やカードなどが入っていたので再発行のため奔走しました。

 大阪で財布を落とした時は本当に慌てました。幸いその日の内に見つかりましたが、もう懲り懲りです。

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将棋世界2012年1月号の付録「対5五歩中飛車“杜の都定跡」を執筆した元・朝日アマ名人の加部康晴さんは、「杜の都 加部道場」で多くの子供たちを将棋で育てている。

奨励会の三浦孝介2級(島門下 14歳)、山川泰熙2級(広瀬門下 13歳)は加部道場の出身。

熊坂学五段、阿部健治郎五段も加部道場に通っていた。

加部さんと飲んだ時に、加部さんが話していたことがある。

「将棋が強くなる子には忘れ物が多い」

将棋に集中しているからこそ、忘れ物をしてしまうということだった。

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「将棋が強くなる子には忘れ物が多い」と「忘れ物が多い子は将棋が強くなる」は、決して同じ意味ではない。

「将棋が強い子は数学が得意」という傾向はあるが「数学が得意な子は将棋が強い」ということにはならないのと同義。

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私は小学生の頃から算数が得意だったが、中学2年から数学の成績が落ちてしまった。

私は被害にあわなかったが、中学2年の時の数学の先生が生徒をよく殴っていたからだった。

同級生が、理由があったにせよ、殴られるのを見るのはとても嫌だった。

自然と、その先生が嫌いになり、数学の勉強もしなくなる。

ちょうど同じ頃、私は将棋に熱中し始めていた。

NHKで、矢野健太郎東京工業大学名誉教授が「数学をやると将棋が強くなる」だったか「将棋をやると数学が強くなる」と話しているのを聞いた。

「数学の勉強をしなくても将棋をやっていればいいんだ」

そういうふうに解釈した私は、なおのこと数学の勉強をしなくなった。

しかし、当然のごとく数学の成績は上がらない。

勉強しなければ数学の成績は上がらない、という真実に気がついたのは、第一志望の高校に落ちた時だった。