将棋マガジン1992年7月号、奥山紅樹さんの「艶麗なるパンダにあらず(下)」より。
高群佐知子女流初段の、ある日の日記―。
×月×日 負けた。この負けは大きいなんてものじゃない。超スペシャル・ショック。
家に帰るなり父に「今までなにやってきたんだ!!」と言われてしまうし。
そんなの、自分がいちばんよくわかっているのに……。
でも絶対言われるような気がした。だから帰りたくなかった―。
すぐ部屋に閉じこもったら、母と姉が来た。
「思ってることと反対を言っちゃうんだよ。様子見に行ってこいって今も言ってたし」と母。
涙があふれそうだった。
負けた時、なぐさめてくれる人はいても、一喝してくれるのは父親しかいない。
だから勝った時は誰よりも先に知らせたい。誰よりも喜んでくれる父のためにも勝ちたいと思う……。
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「様子見にいってこい」、一度でも使ってみたい言葉だ。