勝又清和二段(当時)「ゲッ」

将棋マガジン1990年3月号、駒野茂さんの「三段リーグ&奨励会NEWS」より。

イーちゃんこと飯塚(祐紀)二段が12勝4敗の成績で三段に昇段した。

 普通ならここで、昇段を決めた将棋の解説をするところだが、前局でちょっとしたハプニングがあったのでその話をしよう。

 対戦相手は勝又(清和)新二段。その終盤でのこと。形勢は飯塚ややよしという局面だが、昇段へのプレッシャーもあり、まだまだという状況。勝又もその辺の心理は承知の上で、”粘れば何とかなる”と思い腰を落として読んでいた。

 ところがだ。その腰の落とし方が深過ぎたのだった。秒読みになった勝又は、ジックリいこうということで頭がいっぱいになっていた。そのいっぱいになった頭が不運を招く。

 秒読みの声が「40秒」と告げる。勝又はフムフムとうなずく。その時だ。

「時間切れです」の声。

 それを聞いて勝又は一瞬「ゲッ」という顔で声の主の方を見た。そしてガ〜ン。

「40秒」と言っていたのは隣の秒読み係だったのである。

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”フムフムとうなずく”表情も、”一瞬ゲッと驚く”表情も、”ガーン”とする表情も、勝又清和六段らしい。目に浮かんできそうだ。

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近代将棋1995年7月号、「勝又清和新四段を祝う会」より。

 5月22日、”アルカディア市ヶ谷”にて、午後6時30分から「勝又新四段を祝う会」が開催された。

 発起人、柏原信幸、竹田敏憲、田中匠、田辺忠幸、堀田正夫、石田和雄氏。

司会 島田良男

挨拶(発起人) 田辺忠幸

祝辞 原田泰夫 内田昭吉 はせゆり子 竹田敏憲

本人あいさつ 勝又清和

乾杯 井口昭夫

 来会のファンも棋士も、心から勝又新四段を祝っていた。ほのぼのとしたいいパーティだった。

 島田さんの名司会に始まって、田辺さん、原田九段それぞれ立派な挨拶。勝又新四段の人となりが伝わってくる。

 新四段の少年時代から指導に当たっていた事実上の師匠、内田昭吉氏も壇上に立って、勝又少年の棋風や得意な戦法を述べていた。

 前参議院議員のはせゆり子さんも挨拶。

 東京都庁の将棋部竹田敏憲さんは「都庁に稽古に来られる奨励会の方は必ず四段になっています。四段になれなくて悩んでいる方は一度、都庁へいらっしゃい」と述べて、大拍手。

 勝又君の挨拶もよかった。「下積みが長かったので、こういう会があると、どうしても受付の係のほうへ足が向いてしまいます」という軽い出だしから、三段リーグのときにひどい風を引いて点滴を受けながら対局した苦労ばなしから、皆さんのご支援で「将棋界にいるように」させて頂いた―と感謝の気持を素直に述べていた。

 会場のお父さん、お母さん、厚木王将の田端さん。笑顔がよかったなあ。

 棋士が、米長九段をはじめ、おおぜいが心のこもった祝辞を述べ、最後に師匠の石田八段の挨拶で、閉会になった。

 好漢、勝又、神奈川県座間市出身、26歳。大いに頑張れ。

近代将棋1995年7月号より。

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観る将棋ファンが増えている現代こそ、このような”新四段を祝う会”の模様を記録として残せば面白いのではないかと思う。