森信雄六段(当時)の大好物

近代将棋1991年6月号、故・池崎和記さんの「福島村日記」より。

某月某日

 函館から航空便で毛ガニが届く。送り主の欄を見ると「先崎学」とある。北海道を旅行中らしい。NHK杯で優勝したから、ふところが暖かいんだろうな。東六段、浦野六段夫妻、本間四段を呼んで、カニ・パーティーを開く。平藤新四段も特別参加。カニに目がない森五段はあいにく(いや、幸いなことに)不在だったので、カニの取り合いを心配する必要はなく、平穏な宴となった。(以下略)

—–

近代将棋1993年2月号、池崎和記さんの「福島村日記」より。

某月某日

 ミナミの「網元」で森信雄六段の昇段記念パーティー。といっても大げさなものではなく、森さんを囲んでカニ料理を食べただけ。東六段、脇七段、浦野六段、本間四段、女流の鹿野さん(最近、初段になった。おめでとう)、マージャンプロの青野さん、池崎が出席。

 東さんはもうすぐ七段になる。だから東さん昇段したとき合同でやろうという案もあったが、東さんが「年内は無理ですよ」と言うので、この日の単独パーティーとなった。

 森さんはカニに目がない。どれぐらい目がないかというと、まず自分の取り分を小鉢にきっちり確保し、そのうえで鍋のカニ(つまり他人の分)をセッセと食べる。そしてネタが完全になくなると、「しゃあないなァ」という顔をして最初に確保したカニを、ゆっくり時間をかけて食べるのだ(このときの幸せそうな顔といったら!)。

 鍋は二つあり、私の席は森さんの隣だった。「これは浦野幹事の陰謀だ・・・」と思ったが、「きょうは森さんの祝賀会なんだから」と思い直し、ガマンする。

 森さんは以前、米長九段にカニをごちそうになったことがある。そのとき九段に「キミは女性の前ではカニを食べないほうがいいね」と言われたそうだが、卓見というべきだろう。

 カニ料理のあと、二卓に別れて三人マージャン、私の一人負けだった。

(以下略)

—–

森信雄七段のカニを食べるときの顔、ぜひ見てみたいものだ。

—–

「網元」は、かに道楽グループの店舗で、大阪のミナミに本館別館があり、『かに道楽の奥座敷』と位置付けられている。

料亭の雰囲気のある「かに道楽」ということだ。

そして「網元」の看板料理は、かにすき(鍋)。

森信雄六段昇段記念パーティーでは「かにすきコース」が頼まれたのだと思う。

池崎さんが書いている”鍋”は、「かにすき」を指していると見て間違いない。

→かにすきコースの写真

網元の「かにすき」は、かに本来の甘みが際立つ塩加減と、繊細な旨味を引き立たせる秘伝の「白醤油だし」、削りたてにこだわった鰹節と極上の羅臼昆布で、上品でより一層深い味わいと風味に仕上がっているという。

—–

ちなみに、カニちりという料理もあるが、カニすきは出汁に味がついているのに対し、カニちりは出汁に味がついていないのでポン酢などにつけて食べることになる。

—–

個人的には、カニの中では、茹でただけの毛ガニが一番好きだ。

その繊細な味わいは、カニの王道と言っても良いと思う。

カニ味噌に付けて食べる毛ガニの身は超絶妙だ。

振り飛車党の私が言うのは変だが、将棋に例えれば矢倉。

私は北海道へ行くことが多かったので毛ガニの評価が高いのだが、松葉ガニや越前ガニなどのブランドも知られるズワイガニもカニの王道と言えるだろう。

上記のカニすきに入っているカニはズワイガニ。

将棋でいえば、相掛かりか角換わり腰掛銀。

タラバガニの人気も高い。

タラバガニはヤドカリ科なので、厳密にはカニとは異なる生物。

ダイナミックな味で、将棋に例えれば振り飛車穴熊。

同じヤドカリ科では花咲ガニもある。

タラバガニよりも身が小さく甲羅が硬い。

とても美味しいカニで、その味わいはタラバガニを更に濃厚にした感じ。

油分が多いので一度に多くは食べられない。

将棋でいえば、マキ割り流四間飛車か。

—–

それにしても、1991年の記事と1993年の記事、たまたまほとんど同じ面子が集まっているのが微笑ましい。