森内俊之名人「そりゃあー、あははは」

近代将棋2007年9月号、「森内名人、独占インタビュー」より。聞き手は中野隆義さん。

森内俊之名人が郷田真隆九段の挑戦を受けフルセットの激闘の末防衛、永世名人となった直後の頃のインタビュー。

 今シリーズを振り返って。挑戦者が決まってから七番勝負まで2ヵ月ほどの間がありました。戦いを前にしたその間の気持ちをお聞かせください。

 「特に相手を意識することなく、自分自身の調子を整えて戦いに臨もうと考えていました。相手の強い意気込みを感じていましたので、厳しい戦いになることは覚悟していました」

 七番勝負の流れの中で、そのつどの心境はどうでしたでしょうか。連敗スタートと苦しい滑り出しとなりましたが。

 「第1局は接戦でしたが、第2局の負け方が良くない感じで、押し引きのバランスがずれているのかなと・・・。それを立て直さなければならないと思っていました。第3局の3手目▲7五歩には意表を突かれました。当然、何の用意もないのですけれど、郷田さんにとっても経験がない戦型になっているので、お互い様なのかなと思って相対しました」

(中略)

 第7局は、ねじりあいの凄い戦いになりました。ようやく森内有利がはっきりしてきたかと思われた秒読みの終盤戦では、またしても大逆転かと思わせるような怪しい空気が沸き起こりました。

 「はい。なんとか踏み止まることができましたが、将棋を勝ち切ることの大変さを改めて知らされたと思いました。

 防衛に成功し、同時に十八世名人を名乗る資格を得ました。

 「今は現役で名人としてやっているので、永世名人を強く意識するということはまだありませんが、これまでの永世名人に比べて、積み上げてきた数字や実績が離れていることは変えようがありませんので、それ以外のところでアピールして行きたいと思っています。例えば一局一局の棋譜や、将棋界に対する影響などの面です」

 森内名人のは、アマチュア時代の師匠と棋士になってからの師匠と、二人の師匠がいるのですね。

 「はい。小学3年のころから工藤浩平七段に教わっていました。工藤先生は、私のおじいさんである京須八段の弟子だったのです。勝浦先生は、先生が北海道から上京した時分に私の祖母と母の住む家に下宿していたので、そのご縁で師匠になってもらいました」

 毎年、名人戦の七番勝負の最中に工藤七段が力を入れている将棋のイベントがあって、森内さんは名人になってからも欠かさず指導対局に行っていたそうですね。ところが今年は工藤七段から手紙が来て、来場しないでよいとの内容であったとか。

 「ええ。その手紙をいただいたときは、いろいろとご心配をかけてしまっているのだな、と思いました。もっとしっかりしないと、とも思ったです」

 修行時代の思い出は?

 「私がA級に上がったころだったと思います。工藤先生がファンの方から「森内さんは名人になれるでしょうか」と聞かれたことがあって、私もそこにいたのですが、先生は、「なれないと思います」と言ったのです」

 えーっ!それを聞いてどう思いましたか?

 「将棋を志して、名人になりたいと思わない棋士はいないでしょうから、そりゃあー、あははは。正直な人なんです。工藤先生は。そのとき、業界内の人たちはみんなそういうふうに思うのかな・・・と思いました。まだまだ努力が足りないのであればもっと努力を重ねて行こうとも」

 勝浦師匠はどんな師匠ですか?

 「こういうことをしないといけない、してはいけない、というようなことを言われたことはありません。温かく見守るという感じで、私としてはある程度まかせてもらっているのだなと思っています」

 勝浦師匠も森内名人もマージャンがお好きですが、一緒に卓を囲んだことはありますか。

 はい。何度か打っています。勝浦先生のマージャンはとても柔軟な感じで、場に対して強いと思われるような牌はめったに出てきません。あれ、降りているのかな、と思っていると、サッと高い手で上がったり。うまく回っているのだなと感心させられます」

 ありがとうございました。これからの益々の活躍を期待しています。

 「はい。ファンの皆様のご期待にそえるよう頑張ります」

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工藤浩平指導棋士七段の「なれないと思います」の一言によって、森内俊之八段(当時)は更に努力を積み重ねようと決意する。

森内名人のA級昇級後、”無冠の帝王”と呼ばれる時期が5年以上続くことになるが、2002年に名人位を獲得する。

そして、現在では名人在位8期と歴代永世名人中3位タイの実績。

工藤七段の「なれないと思います」は、森内名人に非常に大きな影響を与えた言葉なのだと思う。

ちなみに、工藤七段が行なっている将棋イベント(西東京名人戦)と森内名人の様子は、次のホームページに掲載されている。

第33回西東京名人戦 (2011.5.22)

   

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