近代将棋1994年3月号、武者野勝巳六段(当時)の「マリオ六段の棋界奔走記」より。
12月20日、久々に将棋連盟のマラソン大会が行われたんです。コースはあの瀬古が練習場にしていた神宮外苑の外周を4周するというもので、1周1300メートル、ゴールの直線を加えて合計5200メートルの距離は、将棋連盟マラソン大会にとっては30年も前からの公認コースとなっています。
プロ棋士は何ごとにおいても勝負が好き。加えて金がかからず運動不足の解消になるということもあって、マラソン大会は古くから盛んで結構長い歴史があるんです。マリオもスリムだった奨励会の頃から走り続けて完走だけは欠かさず、沼六段と毎回のようにブービー争いをしてきたのですが、ビールでふくらんだこの腹では完走できずと断念。
この連盟マラソン大会の歴史、まず30年前は故・高田丈資六段の天下が続き、これを当時奨励会員だった桐谷広人六段が破り、その後接戦の中から小林宏五段、森内俊之六段、豊川孝弘四段らが台頭してきました。
久々の開催ということで暮れの連盟は大騒ぎ。選手総勢32人の出走表ができあがり、プロ棋士が出会うと優勝予想の話題ばかりなんです。本格的な冬山登山を趣味とし、トライアスロンにも挑戦する小林五段は、例の富士山での骨折が癒えず欠場、往年のチャンピオン桐谷六段も翌日の対清水市代戦に備えて欠場、スタミナ抜群の豊川四段は「最近は自転車ばかりっすよ」ということで入着候補止まり。本命は前回優勝の森内六段だろう、今年は奨励会や記者の伏兵はなし―という前評判でした。しかし結果は
- 豊川孝弘四段 20分58秒
- 野島崇宏4級 22分41秒
- 藤倉勇樹3級 22分51秒
- 佐藤耕至記者 23分11秒
- 富岡英作七段 23分29秒
- 佐藤歩1級 23分31秒
という入賞順位で、豊川四段が2位に2分近い大差をつけて圧勝。大本命に推された森内六段は何と7位。彼になにがしかを託している人も多かったらしく、森内六段は走り終わって周囲にしきりに「すまんすまん」と謝っていたよう。
無理をせず周回遅れの選手もいたようですがこれもまたいい運動。それぞれにいい汗をかき、夜はおいしいビールを飲んだのではないでしょうか。
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この前回にあたるのが1989年の大会になるのだと思うが、その時は
- 森内俊之四段
- 小林宏五段
- 豊川孝弘三段
- 富岡英作六段
- 堀口一史座2級
の順位。
1993年暮れのこの大会、小林宏五段(当時)も参加していたとしたら、小林-森内-豊川の三連複を確実な線で買ってみたくなるところ。
小林五段が欠場ということでも、森内-豊川の二連複が手堅い予想。
このような中、森内俊之六段(当時)が7位だったわけで、衝撃を受けた棋士も多かったことだろう。
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「すまん」という言葉は、昭和の頃の野球漫画で多く使われていたような感じがする。
星飛雄馬も伴宙太もたくさん言っていた。花形満も。
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桐谷広人七段のテレビでおなじみのあの感動的な自転車の走りも、奨励会時代からのマラソンにより培われたものだ。
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将棋界マラソン大会、ぜひ開催してほしいものである。
今の時代なら、多くのファンが神宮外苑に駆けつけることだろう。