1989年の奨励会マラソン大会

将棋マガジン1990年3月号、駒野茂さんの「三段リーグ&奨励会NEWS」より。

「マラソン大会をやる!」

 大野・神谷両幹事の一声で、5年振りにマラソン大会の実現となった。

 この話を聞いて、まず初めに思い浮かんだことは、”今、誰が一番速いのだろうか”だった。

 12月17日、ところは神宮外苑。奨励会員の他に棋士、報道関係者、連盟職員が参加。27名の選手が、5.5km(1周1.3kmを4周と直線300m・ハンデ戦)に挑んだ。

 1周目。スタート早々から歩いている者がいた。荒井三段だ。走る前は、「あわよくば賞金を・・・」と言っていた割には気合い倒れだ。周囲の早い者が、「あらたつ、何やってんだよ!ちゃんと走れ」と言われていた程。完走はしたもの43分のタイム。もちろんビリだった。

 目を引いたのは堀口(一史座)2級。細い体の割に、力強いフォームで駆け抜けて行く。走る前に「おじんには負けない!」と強気な発言をし、しっかり5位に入賞した。有言実行?リッパだ。次回の期待の星といえる。

 マラソン大会には必ず参加する桐谷五段は、トレードマークの”必勝のハチマキ”を頭に巻いて力走。前半は好タイムだったが、後半にきてバテバテ。前大会では6位の好成績から13位と着を落とした。やはり、年には勝てないのか。

 優勝候補の筆頭に挙げられていたのは小林宏五段。死角なし、とまで言われたが、ハンデが響いたか2位だった。しかし、19分50秒での走破はさすがだ。

 さて、結果だが、何と! 優勝は森内(俊之)四段。走る前のコメントでは、

「5位以内には入れます」

と言っていたが、まさかこれ程とは。ニューヒーローの誕生である。

 3位は豊川(孝弘)三段、4位に富岡(英作)六段が入り、5位までの者に賞金が手渡された。

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たしかに5位の堀口一史座七段は、言われてみると、マラソン選手のような雰囲気を持っている。

4位の富岡英作七段は、プロになった直後に伊豆大島に住んでいたことがあり、この辺の経験が生きているのだろうか。

3位の豊川孝弘七段は、さすがファイター。

2位の小林宏七段は、本格的な登山家。

そして1位が、意外なことに現在の森内俊之名人。

森内名人は、二日制のタイトル戦や持ち時間の長い順位戦で特に強みを発揮しているが、その原動力はマラソンで見せた「持久力」なのかもしれない。