近代将棋1994年3月号、スポーツニッポンの亀井清明記者による第43期王位戦第1局〔中原誠前名人-谷川浩司王将〕観戦記「谷川、きびしい寄せ合いを制す」より。
王将戦第1局1日目の対局を控えた朝、谷川と中原、両者にとってうれしいニュースが入った。前夜遅くまで対局していたA級順位戦の羽生善治四冠王対田中寅彦八段戦で、田中が羽生を下したことをスタッフから知らされたのだ。
この時点で中原は6勝1敗で羽生と並んだ。4勝2敗で後を追っていた谷川にも目が出て来た。
「えっ?」と驚きの声をあげて、思わずホオをゆるめる中原。谷川も「それはあちらの先生(中原)の方が喜ばれるでしょう」と言いながらも、まんざらではなさそうな表情。二人ともいい気分で王将戦に臨んだ。
何度とはなくタイトル戦を経験している二人の対局だけに、申し合わせたように開始5分前、そろって対局室に入室。静かに駒を並べて行く姿の中にも重厚な雰囲気が漂い、さすが、大物同士の対決と周囲をうならせた。
NHKのリポーターとして取材に来ていた清水市代女流王将も「すごい迫力。こんなの初めての体験です」と感動で声を震わせる。
(以下略)
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順位戦も大詰めの1月中旬の頃。
聖人君子ばかりでは世の中楽しくない。
スポーツ紙記者らしい視点。このような意外な一コマが嬉しい。