中井広恵女流二段(当時)「二つも持っているんだから、私に一つください」

将棋マガジン1984年6月号、グラビア「第10期女流プロ名人位戦表彰式」より。

 関根紀代子三段の挑戦を三タテで退けた林葉直子女流名人の表彰式が4月10日、東京・千代田区の「東條会館」で行われた。表彰状や賞金が授与された後、米長三冠王が壇上に立ち、『(林葉さんは)いままで中途半端だったが、奨励会を退会して女流一本にしぼる」と発表。この瞬間場内は水を打ったように静まり、知らなかった人々はしばし複雑な表情を見せた。しかし、当の林葉さんはもうすっかり気持ちの整理がついたのか、少しの屈託もなく「これからも勉強し続けます」と力強くあいさつした。祝辞のなかで最も面白かったのは、大の仲良しでライバルでもある中井広恵さんのもの。「二つも持っているんだから、私に一つください」と言って満場の人々を爆笑の渦に巻き込んだ。

将棋マガジン同じ号のグラビア、林葉直子女流二冠(16歳)と中井広恵女流二段(14歳)。撮影は弦巻勝さん。

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「二つも持っているんだから、私に一つください」

気持ちはとてもわかるのだが、

「二億も持っているんだから、私に一億ください」

とほとんど同じ意味で、とてつもなく大胆不敵な言葉だということがわかる。

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中井広恵女流六段と林葉直子さんは、この後、数多くのタイトル戦で戦うことになる。

しかし、二人が大親友であることは変わりなく、林葉直子さんが福岡で療養するようになった現在も友情は続いている。

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女流棋界、蛸島彰子女流六段の引退、里見香奈女流五冠の奨励会退会と続いたが、それぞれ中井女流六段がtweetしている。

中井女流六段の視点がとても暖かい。