将棋世界1994年3月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 in 関西将棋会館」より。
1月18日のC2の順位戦の日、棋士室のモニターには木下(晃)六段-飯田五段の一戦が映っている。
そこに研究熱心な二人の男が入ってきた。それでは井上六段と村山七段のやりとりをご覧頂こう。
5図は相穴熊の中盤戦で、いま木下六段が▲6四歩△同金としたところ。
村山「おっかしいなあ。歩を叩いたんだから、当然▲4五歩の一手だけどなあ・・・何考えてるんだろう」
井上「早指しの木下先生が考えてるんやから、何かイヤな筋があるんとちゃうか・・・」
村山 「そんな手ないですよ。ハイ、▲4五歩だ! あれ、動かないなあ」
井上「おっ、村山君こんな手はどないや。▲4五歩に△8八角成」
村山「同玉ですけど」
井上「そこで△6七歩や」
村山「こう!・・・▲同金」
井上「△6六歩と打って▲同金に△6八歩(変化図)でどうや」
「こう!・・・ふぅー」。そのまま村山は立ち上がり、窓際へ行き、景色を眺める。
井上「何や、何か文句でもあるんかい」
村山「・・・いえ、べつに」
井上「その態度が文句あるっちゅうて言うとるんと一緒なんじゃい」
べつに喧嘩しているわけではなく、関西独特のボケとツッコミなのである。
なんでも村山は吉本新喜劇のビデオでお笑いの勉強をしているらしい。顔と体型は合格だけに、鍛えれば・・・ひょっとしたらひょっとするか。
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この6日前の、師匠の森信雄六段(当時)の結婚披露宴で、村山聖七段(当時)は、「僕は森先生が結婚することを、新聞を見て初めて知ったんです。弟子に言わない師匠がありますかねェ」というスピーチをして、大いにウケたといわれている。
やはり、村山聖七段が笑いに目覚めていた頃なのかもしれない。
→村山聖七段(当時)「僕は森先生が結婚することを、新聞を見て初めて知ったんです。弟子に言わない師匠がありますかねェ」
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しかし、変化図で、
▲同金なら△7九銀、▲同飛は△5七銀、▲7九金は△7八歩▲同金△6九歩成となりそうで、井上慶太六段(当時)の指摘した手順で先手が困っているように見えるのだが、村山聖七段の頭の中にはどのような手が描かれていたのだろう。
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それにしても、村山聖七段と井上慶太六段の掛け合いが絶妙だ。